2018年発表の本書は、国際政治学者ジェフリー・ルイスが、金正恩・トランプの米朝交渉を背景に書いた軍事スリラー。韓国含めて3国の政治事情が詳しく盛り込まれていて、フィクションながら「あり得るかも」と思われる展開になる。小説だが巻末には15ページにわたる参考文献リストもあり、核戦争後の2020年に作者が委員長になってまとめた「報告書」の形態になっている。
2018年、シンガポールでの両首脳の会談を経ても、米朝交渉は行き詰っていた。トランプ先生はツィッターで金正恩(&金与正)をなじるくらい。北朝鮮との「何か」はあきらめていて、内政で2期目を目指すことに忙しい。北朝鮮が反発する「米韓合同軍事演習」も予定通り実施している。グアムなどからの長距離爆撃機が、北朝鮮国境近くまで飛ぶ威嚇行為は日常化していた。
そんな日釜山発ウランバートル行きの大韓航空機が、故障で北朝鮮国境に迫ってしまう。北朝鮮防空部隊はこれを米軍爆撃機と誤認、撃墜してしまう。修学旅行の100名を超える高校生が乗っていたことから韓国の文大統領は激怒、米軍に連絡することなく金一族の邸宅などに限定的なミサイル攻撃をする。
文大統領はエスカレートさせないよう限定攻撃にしたのだが、金正恩はトランプ先生の威勢のいいツィッターを見て「斬首作戦」がきたと判断した。そこで62発の巡航ミサイルを放って、在韓・在日及びグアムの米軍基地を核攻撃した。ミサイルの半数以上は空中分解するなど目標に至らなかったが、ソウル・東京などで140万人以上が死んだ。
続いてICBMが13発、ニューヨークやホノルル、DCなどに降った。これも米国人140万人を即死させた。命拾いしたトランプ大統領は、これを契機に中国も含めて核攻撃しようとする。側近が「核のボタン」を取り上げ、米軍は北朝鮮を通常兵器で壊滅させた。
参考になったのは、核兵器の威力。韓国・日本を襲った20キロトン級の危険領域は半径2.3km、米国に飛んだ200キロトン級は半径6.5kmとある。ICBM迎撃のためのアラスカのミサイル部隊はほとんど役に立たず、巡航ミサイル迎撃のイージス艦など登場すらしない。
政治的には面白い話だったのですが、こんな迎撃体制しかないのであれば、ロシアの核が降ってきたら日本列島では誰も生き残れませんね。困ったな・・・。