新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

世界で2番目に古い職業

 本書はジャーナリストから国際政治学者になった松本利秋氏が、2005年に発表したもの。以前からその傾向はあったのだが、国家間紛争に正規軍ではなく「傭兵部隊」が進出してきていて、21世紀にそれが顕著だという。目立つのは米国の「テロとの戦い」、先ごろ撤収したアフガニスタンを始め世界中に米軍は展開していたが、そのかなりの部分を民間企業が請け負って代替している。

 

 加えて前線の戦闘行為だけでなく、兵站や警備といった「後方支援」、果ては戦後復興の都市建設やインフラ整備まで、民間企業が行っているというわけ。例えばイラク再建プランとして、

 

・18ヵ月以内に経済道路1,500マイルを建設

・橋梁を含めたさまざまな復興工事を行い

・高圧送電網の15%を改修

・非常用発電機550機を設置

・数千と言われる学校設備の復旧

 

 が求められた。これに対応できる企業は<ハリバートン社>を筆頭に世界に5社しかない。<ハリバートン>はブッシュ政権の高官ディック・チェイニーが関わる企業で、(当時)年間13万ドル以上の政治献金共和党に納めている。もちろん軍事に関することなら、トイレ掃除から基地建設まで何でもできる。イラク陸上自衛隊が派遣されたが、同じ任務を同社が引き受けたなら、何分の一かの経費で完遂できたと言われる。

 

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 本書の前半は、世界で2番目に古い職業といわれる「傭兵」の歴史。古代ギリシアの傭兵部隊から、ハンニバルの部隊編成、バチカンのスイス人警護兵、対日戦闘機隊フライングタイガース・CIAの亡命キューバ人工作などの例が挙げられている。

 

 米国の中枢は軍産複合体という人もいるが、実際2005年時点では米国内雇用の10%は軍需産業、研究・開発者の25%は軍事関係とある。現時点ではもっと比率は高いだろう。その複合体が、ハイテク兵器を世界中に売ることでは飽き足りず、運用者まで提供するようになっていると「ハイテク傭兵」の出現を本書は指摘する。これもサイバー空間が戦場になった昨今であれば、もっと「業種」は増えているだろう。

 

 本書の冒頭、44歳の元陸上自衛隊員がイラクで殺害された事件が取り上げられている。自衛隊退役後フランスの外人部隊に20余年在籍、死亡時は英国の警備会社の所属でイラクで活動していた。日本人にもフィクションの世界で語られるような人はいたということで、一時期話題になった。グローバル化の一例と思います。