2019年発表の本書は、雇用ジャーナリスト海老原嗣生氏の日本の年金制度論。少子高齢社会になって多くの人が不安を持つ年金問題は、実は日本人の心の問題(病?)だという。年金問題が大きく取り上げられる背景は、政治闘争によるもの。それをメディアが拡幅して伝え、識者と名乗る人たちが勝手なことを言って煽り立てるという。
・100年安心ではないではないか
・マクロ経済スライドは受給者いじめ
・積立金が浪費され、政治家等のふところを肥やした
・低所得なのに、老後資金2,000万円など貯められない
などという騒ぎは、時の野党が与党を引きずり下ろすために仕掛けたもの。デマに近いといいたげである。
まず現行の賦課方式は、批判者が勧める積み立て方式よりずっとメリットが大きい。確かに自転車操業なので、最後の世代になれば損をするが制度が回っている間の多くの人には損得はない。
日本の年金制度は、賦課方式なのに積立金も3年分ほど保有していて、これは先進各国の中でも大きい方(英独仏など数ヵ月分もない)。確かに積立金の一部は浪費されているが、多く見積もっても1%ほどで大勢に影響なし。マクロ年金スライドは世代間公平のために必要な制度で、これも影響は大きくない。それを政争の道具にしている例が、
・公的年金(国民年金は7万円/月ほど)では生きていけない(2004年共産党)
・自民党は年金破綻させる。我が党は全額税金で賄い、維持させる(2009年民主党)
・まず謝れ、100年安心と言いながら2,000万円とはどういうことか(2019年立憲民主党)
など多々ある。行革で原資を出すとした民主党政権は、結局公約を果たせなかった。
昨今流行のBIについても試算があるが、月額7万円では生活保護者(平均13万円/月)は救えないので生活保護などを廃止できず、結局行政のコストは下がらないという。現状に問題がないわけではないが、不安は少ない。だから問題は「弱い心」にあるということですね。