新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

テクノロジー教養講座、2023

 2023年発表の本書は、日経電子版の「教えて山本さん」記事を編集したもの。著者の山本康正氏は京都大学経営管理大学院客員教授、「2025年を制覇する破壊的企業」などの著書がある。

 

 ビッグテック(巨大IT)の考え方や発展の方向性、課題と対応などがテーマだが、日本の官界・産業界に対しての注意喚起もいくつかある。例えば、

 

・日本政府は米国東海岸に比べ、西海岸の情報網が希薄

ベンチャー育成を怠って、すっかり安い国になってしまった

・行政のデジタル化の遅れは、既存SIer依存や細かな規則によって起きた

・教育含めた産業政策が長期的視野に欠け、時の政治の意思で迷走した

 

 としている。ビジネスマン個人についても、「英語はもちろんのこと、デジタル技術を活用したビジネスモデルやファイナンス、データサイエンスなどの最低限の知識が、企業のどんなポジションでも必要」だと言う。

 

        

 

 表紙に「ChatGPTのインパクト」「地政学」といった言葉が並んでいるのだが、内容そのものはごく普通のデジタルイノベーションの話。確かにChatGPTは話題をさらったし、ウクライナ紛争や米中対立でサイバー空間含めた安全保障議論も高まっている。しかし、それらを深堀りした内容にまではなっていない。

 

 むしろGAFAMを始めとする<ビッグテック>が、どのようにビジネスモデル変革をしてきたか、今レイオフしているのはなぜか、また企業買収を頻繁に行わなくてはいけない理由などを、平易に解説している書である。筆者はまだWeb3.0については懐疑的で、仮想通貨だけではないフィンテックの多様性について紹介している。社会人の最初はメガバンク勤務だったというから、その点について(僕には)参考になる記述が多かった。

 

 多くの巨大ITが自分の領域を広げ、かつ自らのビジネスモデル転換を図ろうとしている実態は面白かったです。米国SECのカーン氏は、やはり彼らの敵ですね。