本書は「シャム猫ココシリーズ」でおなじみの、リリアン・J・ブラウン初の短編集。邦訳としては5冊目にあたり、20~30ページほどの短編14作品が収められている。残念ながら、<ココ>やクィララン記者は登場しない。SF調のものから怪奇譚、奇妙な味のミステリーまで幅広い作品群だが、いずれも印象的な猫が登場する。
印象深かったのは「マダム・フロイの罪」。都会の飼い猫マダム・フロイは子猫のサプシムと高層アパートの部屋で飼われていたが、隣に鳩を飼う男が引っ越してきて、敵視されるようになった。男はエサで釣ってサプシムをベランダに誘い出し、突き落して殺してしまう。マダム・フロイは復讐を決意して・・・という物語。
猫好きの作者は、最初に飼った猫を10階のベランダから落とされて殺されてしまったという体験を持っている。その想いが詰まった1編だった。それにしても都会で猫を飼うというのは大変だと思った。
・散歩させるにしてもリードを付けないといけない。
・日光浴させるには「檻」に入れてベランダに出す。
・食料品店がネズミ対策でも猫を飼うのは禁止。
という条例を定めている州もあるようだ。
作品中には様々な猫が出て来て、一人称の語り手そのものが猫だったりする。その猫は飼い主に<一番:奥様の事><二番:旦那様の事>と名前を付け、今日は<一番>が愚痴をこぼしていて、日曜の定番のはずのレバーをくれなかったなどと独白する。ちゃんとした待遇を得るために、その猫は飼い主に「思念」を送ってルールを思い出させたりもする。
ほぼ同時に生まれた飼い主の子供と猫、不思議な運命を背負わされていて、子供は猫の仕草をまねて成長する。困った子供なのだが、猫が死ぬと普通の人間らしい子供に戻るというホラー。美しい猫ばかりではなく「よだれ垂らし」とあだ名される老猫が、街をガス爆発から救うヒーローになるという話もあった。
作者は猫の不思議な能力や様々な運命を描くため、いろいろな手法を使って連作集を作った。何篇か、昔話を語らせるためにインタビュー(100歳の老婆も!)形式にしたものもある。
これで長編4作、短篇集1冊を読み終わりました。まだ<ココ>シリーズは続きますが、読者としての僕の方はこれで一区切りとしたいと思います。