新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5月のコネチカットで死んだ娘

 1954年発表の本書は、警察小説の雄ヒラリー・ウォー初期の作品。リアルな捜査劇を描くとともに、第二次世界大戦後米国の主要都市周辺に雨後の筍のように現れた「郊外住宅地(サバービア)」での市民の生活も紹介しているのが作者の特徴。都市への通勤圏にあり、戸建て中心の新しい住宅地が増えていた。日本風に言えば「ベッドタウン」か。

 

 どこかからやって来た人ばかりの新しいコミュニティで、人口の急増に伴い社会インフラの整備も遅れている。警察や消防といった組織も人手不足である。本書の舞台であるコネチカット州ピッツフィールドも、そんな町だった。

 

 5月初め、公園で若い娘の他殺体が発見される。顔を鈍器様のもので叩き潰され、のどを切られ、片方の乳房もえぐり取られていた。凶悪犯罪が珍しいこの町の警察署では、頼りになる捜査官は定年を過ぎたダナハー警部だけ。老いぼれサルとあだ名される彼は、独身で風采も上がらず、皮肉屋で上司にも部下にも当たり散らす男。

 

        

 

 ダナハー警部は、若いイケメン警官マロイらを使って捜査を開始する。地元紙はセンセーショナルに事件を取り上げ、市長や警察署長に圧力を加える。市長から「1週間のうちに犯人を挙げろ」と迫られたダナハーは「証拠や容疑者を作れと仰るので?」と煙に巻く。難航した被害者の身元確認だが、マロイの発案で頭蓋骨から複顔することで、5年前に家出をしてニューヨークに行った女優死亡の娘だったことが分かる。

 

 皮肉屋ダナハーと快活なマロイの会話が面白い。「推理じゃない、事実だ」と怒鳴るダナハーに、マロイは「推理が事実に合います」と反論する。激突しているように見えて、実に息のあったコンビネーションだ。2人の捜査は、美貌をもって女優を目指した娘を喰いものにする男たちの実態を暴いていく。

 

 なかなかの迫力の警察小説でした。作者の他の作品を探してみましょう。