新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

道徳と市場、2つの論理の境目

 本書(2014年発表)は、NHKハーバード白熱教室」でお馴染みのマイケル・サンデル教授(政治哲学)が、市場主義への疑念を著したもの。市場主義の深化でこれまで考えられなかったものが売買され、巨額の利益を生むこともある現状のレポートと市民への警告である。

 

◆買えるもの

代理母妊娠代行 6,250ドル

・米国への移住権 50万ドル

絶滅危惧種クロサイの射殺権 15万ドル

 

◇売れるもの

・議会公聴会の席(を並んで手に入れる) 20ドル/Hr

・製薬会社の人間モルモット 7,500ドル(一例)

・ある成績不振校の生徒なら、本を1冊読むと 2ドル

 

 クロサイの件は、富豪ハンターが払ってくれたお金でクロサイの繁殖・飼育費用が賄え、個体数が増える効果(!)を産んだ。

 

        

 

 死すらも扱うビジネスモデルがあって、

 

1)従業員に企業が掛け、死亡時に保険金を受け取るのは企業という金融商品

2)終末期患者などの生命保険を企業が買い取り、保険料を払い、死亡時に保険金を受け取る生命保険買い取り(バイアティカル)もの

3)今年どの有名人が死亡するかに賭ける「死亡賭博」

 

 1)はリプレースの難しい幹部などでは常識でも一般従業員に掛けるのはどうかと議論になる。2)は患者も病院も保険会社も損はしないので問題ないように見えるが、非難する人はいる。3)も賭けた人を殺害しようとするなら別だが、問えるとしても賭博罪、ネヴァダ州なら合法だ。

 

 罰金という制度は昔からあるが、悪いことをした罰と見るか、悪いことだけれど自分に都合がいいことをする権利を買う費用(料金)と見るかで評価が異なる。前者は道徳的な論理、後者は市場的な論理に根差している。その境目はどこにあるのだろうか?

 

 著者は本来売ってはいけないものを売買すると、不平等(金を積めば有名大学に入れる)が起き、腐敗(金をもらって目こぼしをする)が横行するのでよくないと結論づける。さらには、行き過ぎた市場原理主義が社会を歪めているとの主張である。

 

 恐るべきビジネスモデルが2014年の時点でも横行していたことを知りました。今はもっとすごいのでしょうね。