新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

心中事件に3発の銃声

 1949年発表の本書は、A・A・フェアの「バーサ・クール&ドナルド・ラムもの」の1冊。本書も訳者が田中小実昌氏(通称コミさん)で、なかなか味のある訳文になっている。<おれ>ことラム君は、腕っ節はからきしだが「抜け目のない羊」としての才覚を発揮し、探偵所のパートナーに昇格している。

 

 今回の事件は、クレアという若い女からの「叔母に近づいてくる男の素性を洗ってくれ」という依頼から始まる。叔母エメリアには資産があり、まだ老け込んでいないので、怪しい若い男が寄ってきたという。その男ダーマスを調査していたラム君は、夜のBARの前で小柄だが魅力的な若い娘と知り合う。

 

 二人は店を変えて呑み直すのだが、娘はウェイターにチップを握らせハイボールと称してジンジャーエールを持ってこさせる。気付いたラム君もジンジャーエールに切り替え、二人は酔っぱらうふりをし合うことになる。娘は何かを企んでいて、ラム君に車を運転させモーテルにチェックインする。そして、そのまま姿を消した。ラム君が残された部屋の隣からは、3発の銃声が聞こえた。

 

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 隣の部屋では、不倫関係かと思われる男女が死んでいた。ラム君は現場から脱出したが、事件を担当するセラーズ部長刑事はラム君の関与を疑って付きまとってくる。死んだ男フルトンは株式仲買人、女はかつてフルトンの秘書だった人で、フルトンの妻は浮気ではないと言い始める。フルトンには4万ドルの生命保険がかかっていたが、自殺だと保険金は下りない。しかしこれが殺人だと倍額の8万ドルが支払われる。

 

 ラム君は、ダーマスの調査・フルトンの身辺・エメリアの生活、さらにラム君を置き去りにした娘の行方を同時に追いかける。複数の事件(筋)が並行してすすむ話は多いのだが、捜査員はラム君ひとり(バーサは金勘定に忙しい)なので、シーンがめまぐるしくのに読者は付いていきにくい。なぜ今ラム君がここにきて、この人物と話しているから分かりづらいのだ。

 

 事件のカギは、2人の心中になぜ3発の銃声がしたのかである。終盤セラーズ部長代理に追い詰められ逮捕されてしまったラム君だが、そこから謎解き・大団円が始まる。追い詰められたラム君の反撃の鮮やかさが、このシリーズの特徴。

 

 本書も、なかなか面白い解決でした。このシリーズ、同じ作者の「ペリー・メイスンもの」よりおすすめです。