新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

第四帝国への道?

 2021年発表の本書は、以前「ドイツ料理万歳」を紹介したドイツ在住の作家川口マーン恵美さんの現代ドイツ政治史。日独の文化の違いを著した書が多い筆者だが、本書はシリアスな政治考。2005年に統一ドイツの首相に就任して、長期政権を築いたアンゲラ・メルケル伝である。

 

 日本では東ドイツ出身(実はハンブルグ生まれ)で、穏健な民主主義守護、人権派環境保護者と伝えられる彼女だが、20年間ドイツで彼女を見てきた筆者には、別の顔が見える。彼女の治世16年間の変化は、

 

・中国との抜き差しならぬ関係

社会主義化、ソフトな全体主義

・反対意見が抑え込まれ、議論ができない雰囲気

 

 が深まったという。戦後西から東へと移住(普通は逆だ)し「赤い牧師」とあだ名された社会主義者の父親をもち、地味だが極めて優秀だった少女アンゲラ。家族ぐるみでシュタージ(東ドイツの秘密警察)と交流があったという。

 

        

 

 東西ドイツ統一以降、彼女は所属する泡沫政党「民主主義の勃興:DA」が保守政党キリスト教民主同盟:CDU」に吸収されて、政界で頭角を現してゆく。時のコール首相に引きたてられながら、2005年にはコールを退けて首相に就任する。それからCDUの政権は、新自由主義的(原発容認)のFDUや環境原理主義緑の党などとの連立の組み換えを行いながら、長期に政権を担当した。筆者は、メルケル政権に連立で加わった政党が、あたかも生気を吸い取られるように衰退し捨てられていったと言う。

 

 経済の方は、リーマンショック後の停滞もあったが順調に伸びた。その主因は中国との過度な関係構築。ドイツ経済はEUの中で「独り勝ち」の状態となった。格差拡大などで労働者の不満が高まると、野党である左派SPDの政策を丸呑みして左傾化し、その傾向は徐々に高まっていった。その反勢力として右派AfDが結成されたが、メルケル政権はこれを極右(&ナチ)とレッテルを張って封じ込めたとある。

 

 保守主義者のはずが徐々に左傾化した変節は、実は本音が出ただけではないかと筆者は言う。もともとドイツ民族は全体主義化しやすい性格を持ち、メルケルはその意識を覚醒させたのではないかとの主張だ。さて、この説が正しくて「第四帝国」が出現するのか?興味深い論説でした。