新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Quod Erat Demonstrandum

 本書は、巨匠エラリー・クイーン晩年の短編集(1968年発表)。題名は「Queen's Experiments in Detection」だが、これはラテン語の「Quod Erat Demonstrandum(証明終わり)」と同じ略称「QED」となっている。論理推理で一世を風靡した若き日の名探偵エラリーは、殺人事件を論理学の問題のように解き「QED」と締めくくるのを常としていた。

 

 巻頭中編「菊花殺人事件」では、ライツヴィルで天皇の首飾りを持つ菊愛好家の老人が殺された事件に、たまたまやってきたエラリーが首を突っ込む。すでにデイキン署長は引退していて、ニュービーが署長に就いている。彼はエラリーに「君がやってくると事件が起きる。ニューヨークに居てくれ」と懇願するが、街の疫病神エラリーは意に介さない。

 

        

 

 刺殺された老人は、「MUM」と手書きのダイイングメッセージを残していた。屋敷にいた誰かが犯人なのだが、いずれも苗字や職業などがMumで始まる。さらに金庫から首飾りが消えていた。MUMを使って、エラリーは2つの事件(盗難・殺人)の謎を解く。

 

 本書には、ほかに15の短編(というよりショートショート)が収められている。「実地教育」では、中学三年の教室で犯罪実態を話すことになっていたエラリーが、教室内で紛失した7ドルの現金をクラス終了までに見つけ出すという難関に挑む。

 

 巻末の「エイブラハム・リンカーンの鍵」では、E・A・ポーが「盗まれた手紙」を最初に掲載した書と、ファンだったリンカーンがコメントした文書が登場する。老いた富豪が2人のマニアに競売させるのだが、2人は「これらが隠されていた場所から見つけた方が、買い取る権利を得る」取り決めを交わした。そこで呼び出されたのが我らがエラリー、ポーはもちろんリンカーンも大好きな彼は、進んで謎に挑戦する。

 

 暗号文や略称など言葉遊びが主体の短編集、米国人でないとわかりにくいところもありますが、気楽に読めるパズル本でしたね。