1961年発表の本書は、女王アガサ・クリスティのノンシリーズ。ポワロもマープルも登場しないが、「そして誰もいなくなった」のような名探偵が登場できない設定でも、普通小説でもない。ロンドンに近い片田舎にある古ぼけた旅籠(!)<蒼ざめた馬(*1)>を巡る不可解な事件を、ルジュヌ警部が担当する。
とはいっても、作者の好む素人探偵として青年学者マーク・イースタブルックが登場、ほとんどの章は彼の一人称で語られる。加えて、マークの知り合いとしてポワロの後半の相棒で推理作家オリヴァ夫人も出てくる。
ロンドンの一角で信者の死を看取ったばかりのゴーマン神父が、何者かに殴り殺された。神父は信者の死の間際に聞いた9名の名前を記したメモを隠し持っていたのだが、犯人はそのメモを探し切れなかったらしい。
メモに記された名前を追うルジュヌ警部だが、そのうち2人はすでに故人。他の人も一人、また一人と死んでいく。マークは<蒼ざめた馬>にいる3人の女が魔女との噂を聞きつけて、内偵を始める。彼女たちは「遠隔殺人」ができるという。メモの人物の死因は自然死とされているが、彼女たちは自然死と見せて殺せるわけだ。
ゴーマン神父が殺された夜、付近でヴィネーブルスという男が目撃されていた。ところが彼は小児麻痺で立ち上がることも出来ないことが、医師によって証明されている。魔女や死神の影がちらつき、不可能興味一杯の謎が読者に示される。マークは<蒼ざめた馬>の住人たちが殺人請負をしていると睨み、自ら依頼人になって犯行を暴こうとするが・・・。
資産を持っている人の死期について相続人と賭けをする、「合法的な殺人依頼と成果報酬」手法は斬新。真犯人についてのトリックもさすがである。ビデオのポワロもので内容を知り、探していた本書を藤沢駅前の古書店で見つけました。僕のクリスティリストから(レギュラー探偵が出ないので)漏れていたのですが、入手できて嬉しかったです。期待にたがわぬ本格ものでした。
1:死神の乗馬