新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

若いクイーン父子に会える

 本書は、エラリー・クイーン後期の中短篇集。1954~65年の発表作品5編を収録している。3編が短めの中編、2編がショートショートだ。原題の"Queens Full"は、クイーンが一杯と、クイーンが3枚のフルハウスを掛けている。

 

 中編のうちの2つは、作者が中期以降舞台としていたライツヴィルでの事件。そこでは、地元警察のデイキン署長とその後継者(こいつが嫌なヤツ)とエラリーが、微妙な関係を保ちながら事件を追う。

 

 もうひとつの中編「キャロル事件」は、ニューヨークで起きたもの。1編のショートショートともども、NY市警のクイーン警部(!)とヴェリー部長刑事も登場する。ライツヴィルものが主流になった中期以降ではクイーン父子の競演は減っていたので、ファンには懐かしい物語になった。

 

         

 

 弁護事務所で公金横領をしてしまった共同経営者のキャロル弁護士が、横領の証拠をつかんだ共同経営者を殺した容疑を掛けられる。殺害時刻には、キャロルは被害者の妻と密会していたというアリバイを主張した。しかしその妻はキャロルの裁判の証言台に立つ前に、何者かに殺されてしまった。

 

 絶望するキャロルとその家族に、エラリーは沈痛な面持ちで「手遅れです、僕には手助けは出来ません」という。キャロルの妻は「あなたは高名な探偵だと聞いたのに」となじるが、エラリーは肩をすくめて背を向けた。

 

 この中編、多分50年ほど前に読んだのだが、とても印象に残っていた。若いクイーン父子に会えたのもいいのだが、若いころのエラリーは論理は凄いが人間の内面への考察は少なかった。本編は、その両方が高いレベルで融合した名作である。

 

 文字や言葉(特にダイイングメッセージ)遊びは、作者の得意とするところ。この中短篇集でも存分に味わうことができます。3年振りに行った新橋駅前広場の古本市で見つけた1冊。とても懐かしいものでした。