新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

西87番街「Veterans」

 本書は巨匠エラリー・クイーンの晩年の作品、1968年の発表でリチャード・クイーン警視が定年退職しているが、新妻ジェシイとの新婚旅行(行き先はナイアガラ瀑布だったらしい)から帰ったばかり。ニューヨーク西87番街のアパートで、エラリーを含む3人の生活が始まろうとしていた。ただエラリーは、中近東への犯罪調査旅行に出かけている。

 

 ジェシイに、見知らぬ男ブラス氏から招待状が届く。ニューヨーク州の外れフィリップスキルに屋敷を構える彼は600万ドルの資産を持ち、これを6名の遺産相続候補者に譲るかどうかのセレクションをするという。集められたのはお互いに会ったこともない、詐欺師・医師・屑鉄商と3人の女性。ジェシイはその中の一人に選ばれたのだ。

 

 ブラス氏は高齢で盲目、ひどく弱っているが、体力自慢の召使ヒューゴーに支えられて「真鍮の家」で暮らしている。金属製品の取引で財を成したようで、屋敷内のすべてのものが真鍮製。ベッドなども真鍮の枠組みだし、床にボルト止めしている厳重さだ。

 

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 ブラス氏は数週間6名の候補者を屋敷に住まわせて人物を見、合格したならば遺産を譲るという。しかし最初の夜に何者かがブラス氏の寝室に侵入、火掻き棒(当然真鍮製)でブラス氏を殴って逃走した。クイーン警視と医師の2人が介抱して事なきを得るのだが、遺産を巡る泥仕合に新婚の2人は巻き込まれてしまった。警視は地元(西87番街)で退職した警官5名で「私的調査隊」を結成、5名の候補者の身元を洗わせる。

 

 ブラス氏は用心棒兼弁護士であるヴォーンという雲散臭い男を呼び寄せ、第二の事件に備えるとともに、候補者たちを監視させ、遺言状執筆にとりかかる。そして警視らの心配の通り、殺人者の魔手はブラス氏を襲った。

 

 実は1956年発表の「クイーン警視自身の事件」の最後に、事件で知り合った看護師ジェシイ・シャーウッドと恋に落ちた警視は、プロポーズをしていた。それから12年を経てめでたくゴールインを果たした2人だが、とんでもない事件に関わったわけだ。最後の章でエラリーが帰ってきて、事件を解決するのだが、本書では生真面目なリチャードの活躍が微笑ましい。退職警官を集めた「リチャード・クイーン探偵局」も面白かったです。人生100年時代ですからね。