1990年発表の本書は、100冊ほどの長編を著わし現在も作家活動を続ける山田正紀の中期の作品。作者は、1974年「SFマガジン」に「神狩り」を載せてデビューを果たした。
・1980年「宝石泥棒」で星雲賞
・1982年「最後の敵」でSF大賞
を受賞し、1990年代まではSF作家だった。1995年に「機神兵団」で星雲賞を取って以降は、2002年に「ミステリ・オペラ」で日本推理作家協会賞を受賞したように、ミステリーへと軸足が移ってゆく。本書はその転換点にあたる作品と言える。
山がちのN県の栗谷村、人口わずか800人。県庁所在地のN市から3往復/日のバス路線があるだけの寒村である。日本がバブル景気に沸いていて、ついに隣村までレジャー開発の波が来るのだが、この村だけは戦後とほとんど変わらない暮らしが続いている。東京のサラリーマン生活で心を病み、妻と息子、義父の4人で、久保寺はこの村に移住してきた。
しかし村人は極端な排外主義、一家はなかなか溶け込めないでいる。久保寺が話ができるのは、やはり東京から来た学校教師の小野寺と、村の青年団のリーダー岡村だけ。歴史研究家でもある小野田は、栗谷村の排外主義は格別だという。150年前地域ぐるみで一揆を起こしたときも、領主に最後まで抵抗したのがこの村。30年前のダム建設計画も、徹底抗戦で取り下げさせている。
しかし村おこしは必要と、青年団はマラソン大会を企画する。しかし脇道のない山道から13人のランナーが消えるという事件が起きる。それは、150年前一揆の折に13人の村人が消えたのと同じ場所だった。その後東京の開発事業者など怪しい人影がちらつき、行方不明のランナー一人が死体で見つかった。
作者はもともとは漫画家志望、SF作家として大成したがミステリーは好きだった。しかしずっと、自分にはミステリーの才能はないと思い込んでいたらしい。1990年前後は、その才能が徐々に目覚めてくるころだったと解説にある。ただいわゆる名探偵は嫌いだったようで、本書でも立派な複数のトリックを名探偵が暴くのではなく、素人の久保寺たちが苦労しながら解いてゆく。
作者のことはSF作家と思っていました。ミステリーもあるなら探してみましょうか。