2004年発表の本書は、第14回鮎川哲也賞に応募し受賞を果たした岸田るり子のデビュー作。日本でも密室殺人に挑戦する新鋭がいたとは正直驚いた。
科学捜査が徹底してきた現代においては、わずかな痕跡も官憲は見逃さない。暗い街燈時代に流行した一人二役トリック同様、密室トリックは絶滅する運命にあると思っていたからだ。ディクスン・カーは「三つの棺」で密室トリックを徹底分析し、もう新しい手法を編み出すのは難しくなってもいた。しかし作者は、これに正々堂々挑戦し、本書で複数の密室を展開して見せた。
フランス帰りの画家新城麗子は京都美術大学の卒業生、京都に戻り個展を開いて同窓生2人も招いた。本編の語り手麻美と、イタリアンレストランのオーナー一条がその同窓生。しかし個展会場で、麻美の友人由加が麗子に「夫の鷹夫が5年前に失踪したのはあなたのせい」となじる。
鷹夫は、全てのカギがかかった密室から忽然と消えていた。その後、5年間封印されていたその部屋で、由加の友人の男高木が絞殺されてしまった。窓一つのカギだけが空いているものの、格子がはまっていて人の出入りは出来ない。さらに一条が自分のレストランで撲殺されるのだが、そこも密室だった。麗子がフランス人の夫との間に産まれた双子の姉弟の不思議な行動や、鷹夫の奇怪な刺青など怪しげな雰囲気のうちに事件は大団円に向かう。
作者自身京都生まれだが、フランス育ち大学もパリで卒業した。日仏ハーフの双子たちのこともあり、人間関係を掘り下げる女性の感覚豊かな場面が多い中、密室殺人というある意味場違いなものが飛び込んでくる印象の小説でした。でもトリックは難しいですね。やはり題名通り「鎮魂歌」なのかもしれません。