以前「洞爺湖殺人事件」を紹介したが、本書(1992年発表)も津村秀介の「湖シリーズ」の1作品。これも長く手に入らなかったものだ。同シリーズの「浜名湖殺人事件」で犠牲者の娘として登場した女子大生前野美保が、本書では浦上伸介の相棒役に定着している。
今回の舞台は白樺湖、太平洋戦争直後に完成した農業用水の人造湖(以前は湿地帯)だが、近年は観光地として有名だ。松本・長野・小諸・小淵沢を頂点とするひし形の中心部に近い湖で、最寄り駅は中央本線の茅野駅。ここに横浜の小学校で同級生だったという16人が集う、2泊3日の同窓会が行われた。
しかし当日出張先の仙台から1日遅れて参加する予定だった宝石商の営業マン増田が、茅野駅からホテルに来る途中で殺されてしまった。35~36歳の男女15名から聞き取りをした長野県警は、増田と入れ違いに横浜に帰った信用金庫勤務の宍戸と、仲間と喧嘩して当日高松に帰ってしまった本野、それにかつて増田と深い関係にあった澄代の3人を疑うのだが、全員確固たるアリバイがあった。
死亡推定時刻は12~15時、被害者が茅野駅にL特急あずさ13号で着いたのは1310なので、犯行時刻は1400-1500と思われた。その時期、
・宍戸 政治家パーティに参加するため横浜のホテルに
・澄代 宿泊先の白樺湖のホテルで同窓生と一緒
というアリバイである。増田は強引な男で、小学生時代からいじめをし、青年になってからも脅迫や恐喝もしていたらしい。15人の同級生全員が怪しいのだが、特にこの3名には十分な動機がある。
僕も、一番怪しいのは高松でスナックを経営している本野だと思った。午前中にホテルを出た後、自分の店に帰ったのは21時すぎだからだ。伸介&美保は、まず本野のアリバイを崩すのだが・・・。
残り100ページになってからの、事件展開がめまぐるしい。カギは増田が新婚の若い妻あて特急電車の中からかけた電話「小海線が見えてきた。また一緒に行きたいね」という電話。複雑なトリックはこの電話1本から暴かれてゆく。
ほぼ8割がた読んでしまったこのシリーズ、本書は今まで読めなかったのが嬉しく思えるくらい面白いものでした。でもトリックは分かりましたよ。僕も鉄道マニアなのですからね。