2012年発表の本書は、ドイツの作家ティムール・ヴェルメシュの風刺小説。今のガザ紛争とそれに対する世界の反応を見ていると、本書(&映画)が「禁断の書」として葬り去られなかった理由が分からない。
アドルフ・ヒトラー(私)は1945年にベルリンの地下壕で自殺したはずだったが、2011年にベルリンで目覚めた。愛人エヴァや側近のボルマン、ゲッベルスなどを捜すが誰もいない。付近のキオスクの主人に援けられた私は、21世紀のベルリンを見て混乱する。
・なぜこんなにトルコ人が多いのだ
・誰もナチス流の敬礼をしてくれない
・不思議な機械(例えばPC)が一杯ある
自分はヒトラーだと言い続けていたら「面白い芸人だ」とショウに誘われてしまう。そこで私は、堕落したドイツを憂い渾身の演説を行った。演説は新聞各紙には酷評された、曰く「外国人や女性、民主主義を攻撃し、青少年やユダヤ人に大きな衝撃を与えた」というもの。
ところがYouTubeに演説の映像が流れるや、たちまち数十万アクセスがあり、どんどん拡散していく。私の見るドイツは、
・妙な女をトップにいただき
・ユダヤ人に頭を下げ
・母なるドイツの大地がユダヤ資本に汚染され
・統一などと言っているが多くの領土を奪い取られたまま
情けなく大陸の中で生きている。私は極右政党(AfD?)と話すがソリが合わない。一方<緑の党>とはある程度政策の一致を見ることができる。インターネット上の人気を背景に、私は再び政治の世界へと踏み出す・・・というお話。
出版以来、ドイツで250万部を売り上げ、ヘブライ語を含む42ヵ国語に翻訳出版されたという。「我が闘争」はもちろん発禁書だが、風刺の皮をかぶせればこのような本も出版でき、映画化も出来たという次第。
ナチスや反ユダヤ主義がタブーとなっている国で、どんな意識が残っているか、不満が溜まっているかを予感させてくれるような書でした。