新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カリブ海の密約

 ジャック・ヒギンズの諸作には、レギュラーと思われる4人ほどの人物がいる。イギリスの諜報機関の長、チャールズ・ファーガスン准将がその一人だし、彼が必死に追い求めていたテロリストがIRAの闘士だったショーン・ディロン。彼の登場作品「嵐の目」での活躍(というかテロリストとしてのだが)は、以前紹介した。
 
 本書の初頭、ファーガスン准将とその意を汲んだ国際的なネットワークは、紛争続く旧ユーゴスラビアで20年間捉えることのできなかったディロンを逮捕する。そのころ仕事を引退したダイバーであるヘンリーは、嵐の後のカリブ海でU-180の残骸を見つけ船長のブリーフケースから不穏な文書を見つける。そこから推測されるのは、1945年にナチスドイツの国家指導者マルティン・ボルマンがここまで逃げてき第三帝国再興の任務を負っていたこと。
 
 ボルマンはヒトラーの命を受けて、イギリス等のナチスの協力者のリストを持っていた。その中にウィンザー公がナチスの協力者であり、ドイツの英国侵攻時には国王に就くとの密約を示した書類があると思われた。ヘンリーは友人の英国退役海軍少将にこの話を告げるのだが、不幸な事故で死んでしまう。事は重大で、海軍少将はファーガソン准将らに本件の処理を託す。准将は、位置もも分からない沈船を見つけ文書を回収できるのはディロンだけだと判断し、ディロンと首相はじめ英国首脳の双方の説得にあたる。長く英国の敵だったディロンを使う事には、当然反対意見も多い。

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 それだけではなく英国政府中枢にも「裏切者」がいて、上記書類の悪用を考える勢力に情報を流している。アメリカ領であるカリブ海の島に出向いたディロンは、様々な妨害行為を乗り越えて文書の回収を計画する。
 
 ディロンもカッコいいのだが、朝鮮戦争のヴェテランで付近の海域を知り尽くしたダイビングの教官ボブ・カーニーの活躍が光る。やがてはファーガスン准将もカリブ海にやってきて、巨大な闇の精力と闘う。今回の海を舞台にしたヒギンズの力作、面白かったです。