1986年発表の本書は、ヒスパニック系の法律家マイケル・ナーヴァのデビュー作。作者はカリフォルニア州の片田舎で、壊れた家庭で育った。親元を離れてロースクールに学び、検察庁に努める傍ら小説を書き始めた。主人公は、やはりヒスパニックの青年弁護士ヘンリー・リオス。ヘンリーはサンノゼ郊外の小さな町の弁護事務所に務めていて、拘置所で麻薬中毒患者の青年ヒューに出会う。
ヒューは富豪の家庭に産まれながら、放浪生活を送っている。父親は精神病院、母親は離婚して家を離れ、叔父と祖母は交通事故で死んでいる。残ったのは祖父ロバートだけだが、嫌われていて寄り付くこともできない。
拘置所で会った時、ヘンリーはヒューを自分と同じゲイだと気づく。それから2週間経って、嵐の夜に怯えたヒューがヘンリーを訪ねてきた。曰く「祖父が僕を殺そうとしている」。2人は一夜を共にしたが、翌朝ヒューは出て行った。
1ヵ月後、ヒューの溺死体が発見された。麻薬中毒患者の事故死と考える現地警察に対し、ヘンリーは唯一他殺を疑う女性警官テリーと共に捜査を開始する。ロバートは州の重鎮判事だが、富豪の家系に入った入り婿で、財産の独り占めを図っているようだ。叔父と祖母の事故死についても、彼の企みがあったのかもしれない。
動機は充分だが、法曹界での権力を持つ彼に、なかなか迫ることができない。ヘンリー自身も襲われるし、協力してくれた弁護士も射殺されてしまった。解説に言う「ゲイ版の長いお別れ」というのは正しく、哀愁を孕んだハードボイルドである。
米国ではゲイの探偵シリーズはいくつもあるのだが、ほとんど邦訳はされていない。本書は最初にボストンの小さなゲイ専門社から出版されたが、一般のミステリーファンにも広く支持されたという。とても読みやすい文体、スピーディな展開は買えます。作者はヘンリーものを4作は書いたようなので、続編を探してみましょう。