新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シカゴの女探偵の短編集

 本書は、昨年までに6作の長編ミステリーを紹介したサラ・パレツキーの「V・I・ウォーショースキーもの」の短編集。1984年から1992年までに発表された8編の短編が収められている。スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンがカリフォルニアの女探偵なら、V・Iことヴィクはイリノイ州シカゴの探偵。どちらも離婚歴のある30歳代の女で、リアリティのあるハードボイルド風の社会派ミステリーとなっている。舞台もメキシコからの移民が多い南カリフォルニアと、ラストベルトと呼ばれるようになるシカゴの対比が面白い。

 

 どちらも人種のるつぼのようなところで、格差が激しく大多数の市民は生活が苦しい。弁護士出身だが銃も格闘もまるでダメなキンジーに比べると、学生時代はバスケット選手で空手も得意なヴィクは「探偵」っぽいが、銃を撃つシーンはほとんどない。

 

 ヴィクは私立探偵だが、長編も含めて見知らぬ人から依頼を受けて事件に絡むことはめったにない。ポーランド人の父とイタリア人の母の間にシカゴの下町で産まれ育った彼女には、近くに住む親戚の他子供の頃からの付き合いのある人が多い。アフリカ系もユダヤ系もいるし、ヒスパニックも増えている。

 

        

 

 「ゲームの後に」では、一昔前は製鉄業に支えられて上り景気だったこの下町で産まれた子供は町に残ったとの記述がある。しかし近年(1990年代)になると、成長した子供たちは出て行ってしまう。それでも一部の人達は、町を離れられないでいる。もちろんほとんどが貧困層だ。

 

 作者はこのシリーズの長編では、海運業界や建設業界を綿密に調査し、業界と行政府や警察などの癒着を背景にして事件を描く。しかし数少ない短編では、業界研究に掛ける時間が割けないからだろう、ハードボイルド色が濃くなっている。

 

 長編でお馴染みのメンバーも登場する。ユダヤ系の病院に務める医師のロティは、ある事件では容疑者にされてしまう。また別の事件では、ロティの姪のペネロープも容疑者になる。ヴィクは知り合いに事件解決を依頼されながらも「ダメなのもはダメ」の意識で真実を暴こうとする。

 

 それぞれ面白いのですが、どうしても長編のコクを出すには至りません。ミステリーは短編と思うのですが、ヴィクの話は長編でこそ生きるのかもしれません。