新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

キンジーの新しい「職場」

 本書はご存じ、Aから順番にタイトルを付けていくスー・グラフトンの「キンジー・ミルホーンもの」の第9作。30歳代の女私立探偵で主人公にした人気シリーズとしては、サラ・パレツキーの「VICもの」があるが、これがどんどん長編化してついには上下巻になるほどになったのに比べ、「キンジーもの」は精々400ページで事件にケリがつくのが嬉しい。

 

 住居を焼かれたりオフィスを取り上げられたりする渡り鳥のようなキンジー、本書でも間借りしていた<カリフォルニア信用保険>のオフィスから追い出されてしまった。時々同社の調査を請け負っていたのだが、正式契約でもなく同社の支社長が新しくなって、彼女とソリが合わない人物だったのが原因。

 

 ロニー・キングマンという弁護士の事務所に移ることにしたので、この弁護事務所の事件を請け負うようになった。最初の事件は、数年前に妻が射殺され容疑がかかった男デヴィッドに対する民事訴訟に関するもの。殺された妻は資産家で、男は殺人容疑で裁判にかけられたが陪審員は無罪評決をした。状況証拠は真っ黒だったのに・・・である。

 

        

 

 民事訴訟を起こしたのは被害者の前夫、デヴィッドが妻の資産を浪費していることにストップを掛けたいというのが動機。一事不再理で刑事では裁判にかけられないから、民事でという訴訟をロニーが引き受けたのだ。

 

 ロニーは中年の私立探偵モーリーにデヴィッドの身辺や殺人事件の調査を依頼していたのだが、モーリーが急死してしまったのでキンジーに調査を引き継いでほしいという。モーリーはキンジーが私立探偵になるときに世話になった人物でもあるが、一人暮らしの不摂生が祟ったらしい。

 

 段ボール箱2個の未整理の書類と格闘したキンジーは、モーリーがまともな調査をしていなかったことに気づき、ゼロからデヴィッドや被害者の身辺を洗い直す羽目に。しかも訴訟期限が迫ってきて、彼女は焦り始める。

 

 解説では、本書がシリーズ最高傑作と評価しているが、確かに重厚な私立探偵ものに仕上がっている。才能あふれるがゆえに、資産があるがゆえに、イノセントに敵を作っていた被害者やその周りの人の感情が細かく書き込まれていた。また、最後の銃撃戦も射撃が下手なキンジーゆえに、リアルな迫力だった。

 

 このシリーズ、好調ですね。次は「J」ですか。