新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

欲望と虚飾の街の事件簿

 今日(12/1)は、日本では映画の日である。1990年発表の本書は、長年ハリウッド(街だけでなく俳優や映画関係者を含む)を取材してきた記者ジョン・オースティンの手になるもの。彼はハリウッドを「寡頭政治の街」と呼んだ。高名な俳優やプロデューサーが巨万の富を得て、自らのやりたいようにできる街という意味だ。

 

 ここでは普通の「法の支配」が及ばない。筆者が一線の記者だった25年間に、映画関係者が関わる30件余の迷宮入り事件が起きた。本書はその中から11件を抽出したものだ。日本でも有名なのは、マリリン・モンローの事件。彼女は当時の大統領と司法長官であるケネディ兄弟の(共通の)愛人であり、その仲を暴露しようとして殺害されたと筆者は推定する。

 

        

 

 まるで呪いの映画のような話もある。高名な大作「理由なき反抗」は、クランクアップ後多くの関係者が予期せぬ死を迎えた。

 

・ジェームス・ディーン、事故死。24歳

・サル・ミネオ、刺殺さる。37歳

・ニック・アダムス、鎮静剤服用自殺。36歳

・ディヴィッド・ワイズバート、病名非公表。44歳

ナタリー・ウッド、溺死。43歳

 

 最後のナタリーは、NCISで今も健在ぶりを見せてくれるロバート・ワグナーの妻だった。2人とも子役出身で、若いころ一度結婚し離婚。10年余を経てもう一度結婚している。しかしナタリーが若い俳優ウォーケンと仲良くなり、ロバート所有のヨットに3人で乗船した後、溺死体で見つかった。三角関係がもたらした事件と見られたが、ロバートは警察の事情聴取を拒否し、事件は未解決で終わった。

 

 本件に限らず、ロス郡検視官トーマス・ノグチが再三登場するが、疑惑は提示するものの「寡頭勢力」に阻まれて解決には手が届いていない。1980年ころ米国では航空機産業に次ぐ第二の産業だった映画界、莫大なカネが不透明に流れ、多くの人達が虚飾にまみれた生活をしていた。

 

 ドキュメンタリーではありますが、立派な社会派ミステリーでした。