新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

組織の男と家庭生活

 以前「悪党パーカー」シリーズを紹介したドナルド・E・ウェストレイク、多彩な作風で知られているがそのルーツは雑誌「マンハント」にある。ミステリー雑誌のひとつで、主にハードボイルド小説を掲載して人気を博した。ウェストレイクはハードボイルド短編で経験を積み、1960年に最初の長編ミステリーを発表した。それは本書である。本書は高名な評論家が「ハメット以来の新しい方向性を示した」と賞賛している。

 

 30歳そこそこでブルックリンの組織のボスであるエドの右腕として知られるクレイ。学生時代に事件を起こしエドに助けてもらったことから、暗黒街のメンバーになった。ある日彼のアパートメントに麻薬の売人ビリイが駆け込んでくる。彼自身も中毒患者で、いい気持ちでいたところ殺人現場で目覚め「罠にはめられた」とクレイに助けを求めに来たのだ。

 

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 殺されたのが政界の黒幕の愛人だったことから、ニューヨーク市警は迅速に動きビリイの後を追ってクレイのところに来た。その後行方をくらましたビリイを「事故死」させようかというクレイにエドは、「ビリイを罠にはめた奴を探せ」と命じ、クレイは警察と競って殺人事件解決をする羽目になる。

 

 政界の黒幕から被害者メイヴィスのこと、その友人のことを聞き出したクレイは、二人から彼女がかつて付き合っていた男たちの名前を知らされる。メイヴィスは美女だが金の亡者、自分を有名にしてくれる男や金持ちと次々と関係していた。クレイの手帳には長いリスト、演劇教師、クラブの経営者、プロデューサー・・・。クレイは買収した警官や売春組織の元締めらを使って彼らの身元やアリバイを探る。

 

 事件を追いながら、クレイは恋人エラとの結婚について悩み続ける。エドも家族には「実業家」の顔をしているし大学に通う娘もいる。組織の顧問弁護士は、妻には悪党に手を貸していることを教えておらず、クレイが自宅を訪ねると激怒する。俺(クレイ)は組織から足を洗わずにエラと結婚し家庭を持てるのか・・・と。

 

 後半エラにクレイが言うセリフが面白い。「俺は社会の仕組みの中で動いている。エドの組織(の麻薬・売春・賭場・もぐり酒場等々)も多数の市民が望んでいるから存在している」というが、エラはクレイを愛しながらも迷う。

 

 意外な犯人もある立派なミステリーで、暗黒街を正面から捉えたシリアスな作品でした。ウェストレイクのデビュー作、賞賛に値します。