昨日「そして殺人の幕が上がる」を紹介した、ジェーン・デンティンガーの第二作が本書(1984年発表)。前作に引き続き、女優兼演出家のジョッシュ・オルークと、ニューヨーク市警部長刑事のフィル・ジェラルドが探偵役を務める。
二人は前作の事件で知り合い、恋人同士となった。相変わらずジョッシュは脇役を務めながら、ブロードウェイで暮らしている。この街にはいろいろな演劇界の人種がいて、本書でも俳優以外に演出家や照明係などの専門職、俳優等のエージェント、さらに演劇批評家が登場する。
俳優たちのように直接舞台を支える人以外には、作者の目は厳しい。エージェントについては、
・鮫がエージェントを襲わないのは、共食いがいやだから
・あるシーンではエージェントは必要悪だが、それ以外では常に「悪」だ
と酷評している。もうひとつ、批評家というのも演劇界に巣食うヤカラと思っているようだ。本書では、辛口批評で知られるセイリンという批評家が事件の発端になる。イプセンの作になる舞台が封切られたが、セイリンは主演女優のアイリーンを酷評する。演技の事ではなく、大柄で太目、年取っているということを汚い表現で非難したのだ。
怒り狂った女丈夫のアイリーンは、レストランで偶然出会ったセイリンに、フィットチーネを頭からブチまける。その後宥和に向かう兆候もあったのだが、セイリン家で行われたパーティでセイリンが倒れ、居合わせたジェラルド部長刑事の捜査でストリキニーネによる毒殺だとわかると、アイリーンは不利な立場に。
前作と違って自ら疑われているわけでもないのだが、ジョッシュは恋人の依頼もあって事件の人間関係を探り始める。セイリンには女優のコートニーという婚約者がいて、彼女は妊娠していることが分かる。
前作同様ブロードウェイの内幕話なのだが、TVドラマ・映画・脚本などの引用が多く、知っているもの(刑事コロンボ・Star Treckなど)以外は、引用された意味を理解するのに苦労する。また登場人物が姓で呼ばれたり名で呼ばれたり、統一されていないので日本人には読みづらい面もある。
ただ今回はフィルの体を張った大活躍があって、ややジョッシュの影が薄いけれど面白いミステリーに仕上がっていました。二人の仲はこの後も進展するのか、気になりますね。