新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

影の形の変化から・・・

 1957年発表の本書は、生涯で7作の長編ミステリーを遺したクリストファー・ランドンの代表作。第二次世界大戦で英国の野戦医療部隊に所属し、少佐にまで昇進した筆者は、退役後いくつかの職業を経て作家に転じた。北アフリカを舞台にした戦記ものから、スパイものサスペンスものなどを書いたが、本書はアクションと緻密な科学的推理が融合した作品に仕上がっている。

 

 ロンドンの私立探偵ハリーは、美容師の男ステビングスから内々の依頼を受ける。数ヵ月前に誘拐された娘を取り返してくれというものだが、身代金の要求ではなく「ある違法なこと」を強要されているという。手掛かりは、毎週同じ構図で送られてくる娘の写真だけ。誰の仕業かはもちろん、どこに囚われているかも分からない。

 

        

 

 ハリーは妻ジョウンと友人のジョッシュの助けを借りて、事件を引き受ける。写真の解析はジョッシュに任せ、ステビングスの周辺を洗い始めると、手荒なことを厭わない連中が襲って来た。ジョッシュは写真に写る幼女の影に注目、角度と長さの変遷から写真が撮影されている場所の緯度・経度を割り出す。そこは大陸、ロワール河沿いの城館だった。背後に巨大犯罪組織がいることから、官憲の協力も十分得られない。3人は観光客を装って城館に潜入する。

 

 幼女誘拐とその裏にある犯罪、ハリーらを襲う度重なる危機、複雑な計算式を基にした緻密な分析など、重いテーマを扱いながら、ハリーのとぼけた味やハリー夫妻の軽妙なやりとりがあって、軽めのスリラーにも思える。

 

 難を言えば、各章が長く(40ページほどもある)息がつけないこと。なかなかの力量を持った作者ですが、本書発表から3年後睡眠薬の飲み過ぎで亡くなりました。享年50歳とは、早すぎた死でした。