新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「歴史の都ツアー」の事件

 本書(1991年発表)は、何作か紹介している英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターの「モース主任警部もの」である。作者は英国ではアガサ・クリスティーの後継者とも言われ、モース警部は最も有名な探偵とされている。シャーロック・ホームズを抑えての首位と言うから驚きだ。これは、セントラルTV局が「モースもの」のドラマ化をたくさんしたからかもしれない。TVドラマ化では原作が足りなくなったほど好評だったという。

 

 ただ本書の面白いところは、警部のホームグラウンドであるオックスフォードの街が詳しく語られていること。僕は「有名な大学のあるところ、ロンドン・パディントン駅から約100km北西」くらいしか知らない。本書巻頭に街の主要部の地図が付いていて、街の紹介も随所にある。ルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」を執筆したところで、中世からの歴史遺構や博物館も多いという。

 

 なぜこういう記述があるかというと、本書の事件は米国西海岸からの「英国・歴史の都ツアー」で起きるから。読者は、事件関係者と一緒にツアーを楽しむこともできるのだ。

 

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 ツアー客は65~75歳の比較的裕福な男女27人、4組の夫婦を含んでいる。そのうちの一組ストラットン夫妻は、オックスフォードの博物館に「ウルバーコートの装身具」を寄贈する予定でツアーに参加していた。しかし<ランドルフ・ホテル>に到着した夕方夫人が心臓発作で死去、装身具が何者かにもち去られるという事件が発生する。

 

 さらに装身具を受け取る予定だった博物館の担当者が、何者かに殴られて川に投げ込まれる事件も起きる。事件を担当することになったモース警部・ルイス部長刑事のコンビは、ちょっと勝手の違う米国人たちを尋問し、ツアーガイドや博物館関係者から地道な聞き込みを続ける。

 

 地図のおかげで独りぐらしのモースの住まいや職場、現場となったホテルなどの位置関係が分かりやすい。またモースが意外とお金に細かいことや、当時の物価もよく分かった。モース曰く「タクシーで帰ると3ポンド、それだけあれば3パイントのビールが飲める」、これに対しホテルのバーテンが「ウチだと2パイントです」と言う。

 

 フライドエッグ、ベーコン、焼きトマト、ソーセージなどと「英国風朝食」のレシピも出ていて、つい英国旅行をしたくなった。あまりなじめなかったモース警部、ちょっとは親近感がわきましたよ。