2001年発表の本書は、以前「こんなに弱い中国人民解放軍」「日本転覆テロの怖すぎる手口」を紹介した軍事ライター兵頭二十八氏の初期作品。戦争をリードするのは古来技術だが、その比重が近代には途方もなく大きくなった。国力が10~20倍ある米国に挑んだ帝国陸海軍の所業は無謀というしかないが、やはり技術においても大いに劣っていたことが本書で明らかになる。
日本海軍が戦力で勝っていたと考えられる1941~42年夏まででも、端々を見ればその劣勢は明らかだった。それを覆さんと(もしくは少しでも縮めようと)山本司令長官が考えたのが、陸上攻撃機と戦闘機(零戦)の長距離攻撃だった。しかし、米国太平洋艦隊の根拠地ハワイは、陸上攻撃機にとっても遠すぎるところ。そこで代案として浮上したのが、正規空母6隻を集中運用し艦上攻撃機で真珠湾を空襲するという作戦だった。
山本の考えた戦術は大型爆弾を積める艦上攻撃機からの水平爆撃だったが、装甲の厚い上部より、当たれば必ずダメージを与えられる水線下への攻撃、つまり雷撃が有効とされた。調整や取り付けに時間がかかり、しかも高価な魚雷を山本は嫌っていたと本書にある。しかし水雷屋の南雲提督らの主張を受け入れ、雷撃機を攻撃に加えることに同意する。このあたり映画「トラ・トラ・トラ」とは真逆の話だ。
魚雷を信用していない山本は、南雲に機動部隊を任せる。そして戦果を挙げるのだが、やはり運用(*1)が心配で、ミッドウェーには戦艦部隊に自ら座乗して出撃する。魚雷だけではなく、空母の能力(*2)も信用できなかったようだ。山本自ら選んだ零戦の機銃エリコン20mmも、米軍の標準であるブローニング12.7mmに威力や命中精度で劣っていた。
技術者として冷徹な結論ですが、とても勝ち目はなかったということです。この本を読んでから、架空戦記を楽しめなくなりました。
*1:魚雷の扱いは難題で、それがミッドウェー海戦の「雷爆転換の悲劇」として後世に伝えられたという。
*2:エレベーターの速度、搭載能力、整備力、抗湛性なども米国空母に及ばなかった。