新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サグラダファミリアを超える夢

 本書(1999年発表)は、「刑事コロンボ」シリーズの比較的新しい作品。このシリーズは1968年から7シーズンと、1989年から3シーズン+スペシャル版で2003年まで新作放映は続いた。デビュー作「殺人処方箋」の頃には41歳だった主演のピーターフォークは、80歳近くまで刑事役を務めた。

 

 本書は熱烈なコロンボファンである2人の若手作家、スタンリーとアレンが共著したもの。残念ながらこの2人の他の作品については探せなかった。2人は子供の頃からコロンボ警部が大好きで、共著で本書を書けたことを「間に合った」としている。作者名スタンリー・アレンは、この1冊のためだけのペンネームのようだ。

 

 本書の犯人役は、大手建設企業の設計部長レドナップ。彼は支社長の引退を前に、次期支社長の地位を副支社長バーンスタインと争っている。やはり建築家でレドナップが10歳の時に現場の事故で死んだ父親の遺志を継ぎ建築家になった彼は、ガウディにも師事しいつか「サグラダファミリアを超える建物」を建てたいと思っている。その成就のためにも、支社長争いに負けるわけにはいかない。

 

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 実力的には優位だった彼だが、バーンスタインレドナップのスキャンダルを嗅ぎつけ証拠を握り、レドナップに支社長争いから身を退くように迫った。レドナップバーンスタインを殺すことに決め、支社の20階建てのビルの構造を利用してアリバイ工作をした上で犯行に及ぶ。殺人現場にやってきたのは、よれよれレインコートを来たホームレスのような男、そうコロンボ警部だ。

 

 全編に「コロンボ愛」が感じられる作品で、精緻に作り上げたアリバイを粘りで撃ち破るプロセスはもちろん、コロンボ警部のユーモラスな面が十二分に描かれている。例えば、10年以上人間ドックに行っていないと市警の管理部門から受診を義務付けられたコロンボが逃げ惑うシーン。2回は逃げ延びたのだが、3度目には「逮捕されて連行」されてしまう。

 

 またアリバイ崩しのヒントになったホームレスの抗議行動。レドナップ設計のビル建設で居場所を追われたホームレスに聴取に行ったコロンボは、警備員には追い立てられるし、ホームレスの長からは仲間と間違われて歓待されてしまう。

 

 21世紀になっても続いたコロンボもの、本書は放映はされていないようですが、新しい書き手もでてきて書き継がれていくようです。