新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

オペラの歌姫の遺言状

 1960年発表の本書は、エリス・ピーターズのクリスマスミステリー。作者は英国ミステリー界では「修道士カドフェルもの」などで有名とのことだが、これまで手に入っていない。以前シャーロット・マクラウド編のアンソロジー「サンタクロースにご用心」に1作を書き下ろしで掲載しているのを読んだだけだ。

 

 作者はもともと歴史作家、ミステリー作家としては本書が第二作にあたる。いくつか本格ものを書いた後、1977年に「聖女の遺骨求む」から20冊を数える歴史推理カドフェルものでミステリー史に名を遺した。

 

 ウイーンで最後の公演を終えた後、オペラの歌姫アントニアは70余年の生涯を終えようとしていた。臨終には、姪とその息子、医師、マネージャー、弁護士、秘書と長年の歌手仲間リチャードが立ち会った。アントニアは最後にリチャードだけに秘密の箱を渡す。葬儀を終えた彼らは、チャーター機チューリッヒを目指すも、暴風雪に巻き込まれオーストリアの雪深い村オーバーシュヴァンデックに不時着する。

 

        

 

 パイロットであるマクヒューを含めた7人は、怪我もなく村のホテルに入ったが、雪に閉じ込められて村から出られない。皆の要望により、若い弁護士ニールは、遺言状を読み上げることにした。

 

 マネージャー、医師、秘書には少額の礼金が贈られる。しかし身寄りである姪のミランダとその息子ローレンスには涙金程度、数十万ポンドと言われる全財産はリチャードのものとなってしまう。怒り狂うミランダの脇で、当惑を隠せないリチャードだったが、その夜モルヒネで毒殺されてしまった。密かにローレンスを慕う秘書のスーザンは、閉じられた雪のホテルで真相を暴こうとするのだが・・・。

 

 作者の習作と捉えられたのか、日本ではずいぶん遅い出版だったが、れっきとした本格もの。クリスティの新作といっても通ったかもしれない。まだまだ、隠れた英国女流作家はいるのですね。カドフェルもの、探してみます。