新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

幻となった「コロンボ講話」

 刑事コロンボものは、ほとんどリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクの合作によるものだ。ところがわずかに別の著者による原作があって、本書はそのひとつ。作者はアルフレッド・ローレンスである。・・・しかし実はこの作品、TVドラマ化されているものではない。事情は不明だが、原作はありながら放映された70本近いコロンボものに入っていない。

 

 舞台は、ロサンゼルス近郊のメリディスという有名大学。メリディスという名前の実業家が設立した大学で、彼の邸宅を中心にした広大なキャンパスだ。総長のトランスはスマートなシャーロッキアン。大学経営に手腕を発揮するのだが、その裏で私腹を肥やし美しい女子大生と深い仲になっている。

 

 次期総長選挙に立候補を考えているボーハート教授は、新しい学科設立の案をトランス総長に握りつぶされそうになってついにキバを剥く。実はボーハート教授はトランス総長の不正を嗅ぎつけていたのだ。言うことを聞かないと不正をバラすと脅されて、トランス総長は教授を「消す」ことを考える。

 

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 その夕方メリディス大学では特別イベントとして、現役警官の体験談を聞くことになっていた。そう、講師役に選ばれたのがコロンボ警部である。いやだとかあがってしまってとか言いながら、警部は2時間の講話を無事に終える。ところがその間にイベント会場を抜け出したトランス総長は、ボーハート教授を学生会館に呼び出して撲殺していた。演劇用の棺に隠した死体は、2日後に発見され殺人課のコロンボ警部はメリディス大学を再び(仕事で)訪れることになる。

 

 例によって風采の上がらないとぼけた言動で関係者をけむに巻きながら、コロンボ警部は徐々にトランス総長を追い詰めていく。ただすでに講話を行い「それなりに優れた刑事」との印象をトランス総長含めて関係者が持っているところが、ちょっといつもと違う。一方トランス総長のアリバイは、コロンボ講話を抜け出していないといいうことにかかっていた。総長はこっそり録音した講話内容を覚えていて、それでアリバイを主張するのだが・・・。

 

 コロンボ先生の講話シーンをTVドラマで見たかったのですが、逆にこのシーンがあったから映像化できなかったのかもしれませんね。