新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

テロ組織<マカベア>の長、ユダ

 本書(1997年発表)は、ジャック・ヒギンズのショーン・ディロンものの1冊。以前紹介した「悪魔と手を組め」に続く作品で、英国首相の私兵であるファーガスン准将、バーンスタイン主任警部とディロンの3名が活躍するシリーズだ。1992年「嵐の眼」で主役として登場したディロンは、この時はまだIRAのテロリスト。迫撃砲弾でメージャー首相を狙うが、首相は間一髪危機を逃れる。

 

 その後ファーガスン准将に協力を強制されていたディロンだが、この頃にはトリオの活躍を普通に受け入れている。バーンスタイン主任警部はユダヤ系の女性で、アイルランド人のディロンには、敬意を持っている。ウィットもあり頭も切れるのだが、決して恋愛感情は持てないという。それは、ディロンがいとも簡単に人を殺すから。それでも本書では囚われの身になった彼女が、人質の娘に「ディロンは必ず来てくれる。期待を裏切ったことは無い」と告げる。

 

 30年近く前、政治家の息子でハーバード法科の学生だったキャザレットは、ヴェトナムの惨状に心を痛め、大学を辞めて志願兵となる。戦場で活躍し中尉になった彼は、ある日ヴェトコンから救出したフランス人女性と恋に落ち、一夜を共にする。その結果その女性ブリサック伯爵夫人は、美しい娘マリーを出産する。

 

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 その後米国に戻ったキャザレットは英雄として父親の跡を継ぎ、上院議員になる。伯爵夫人はフランスを訪問した彼に、マリーはあなたの娘だと告げてじきに亡くなる。この秘密は3人だけのものだったが、ユダヤ系のテロ組織<マカベア>の諜報網はこの事実を掴む。そして米国大統領となったキャザレットに、マリーを誘拐して脅しをかけてくる。「娘を助けたければ、中東3国を米軍で攻撃せよ」と。

 脅迫のメッセンジャーに選ばれたのがディロン、彼はマリーを救うためファーガスン准将とホワイトハウスを訪問する。今回は英国首相も知らない、米国大統領の私兵としての闘いを、ディロンたちは迫られる。

 

 このシリーズの常として、悪役の設定が面白い。<マカベア>の長は、ユダと名乗るユダヤ人。周到な計画性と人心掌握力、諜報力・組織力で、ホワイトハウスダウニング街にもネットを張っている。この狂っているが恐ろしい敵に、ディロンは果敢に挑戦する。

 

 前作ほどではないにせよ、実に面白い活劇でした。1995年の「闇の天使」が見つけられません。しつこく探してみますよ。