新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

欧州の排外的ポピュリズムと日本

 2020年発表の本書は、欧州暮らしが長く6ヵ国語を話すフリージャーナリスト宮下洋一氏の<排外的ポピュリズム>レポート。筆者は、チェコ・オランダ・ドイツ・イタリア・フランス・イギリスを巡り、ポピュリズム政党党首や市民、移民にもインタビューして事情を整理した後、日本に戻って日本の移民問題を考えた。

 

 上記6ヵ国は、EUという5億人超の超国家を作り上げたが、方々にひずみが出ている。国民がそのアイデンティティを失いかけているとの不安を持ち、それに寛容な移民政策で増えてしまった異民族・異教徒の存在が拍車をかけた。さらに昨今の紛争や気候変動などで、移民希望者が続々とやってくる。

 

 各国のポピュリスト政治家は、

 

・移民は悪くないが、自由を奪うイスラム教徒(の集団)は良くない

・移民に生活を圧迫される人が増えたのも、移民というより(これまでの)政治が悪い

 

 と市民の不安に付け込んでくる。 

 

        

 

 移民の方も、多くは「こんな国は嫌いだ」と思っているが、よりひどい故国に帰ることもできず不満を溜めながら生きている。そんな不満をもった移民の群れが、一般市民を不安にさせる。加えてEU(&ユーロ)という不平等な仕組みが、市民に自由を奪われたとの意識を持たせる。

 

 その結果どの国でも、脱EUの動きと、排他的ポピュリズム政党の台頭が起きているわけだ。移民(が市民になるの)に何を求めるかは、言語・習慣・自由・博愛など各国微妙に違う。労働力としての期待より、行政サービスや補助金を横取りされている不満の方が大きいのは共通だ。

 

 筆者は、実は270万人を越えた在留外国人がいる「隠れた移民大国」日本の状況にも言及している。欧州各国市民が移民に抱いている不安や恐怖は、日本ではまだ感じられないという。ポピュリズム政党であるれいわ新選組の山本代表も、移民排斥を声高には言っていない。まだ、日本が欧州のように排外的ポピュリズムの動きをするには、少し間があるということでした。