新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

鬼貫警部と4人の同級生

 本書は「本格の鬼」鮎川哲也の「ペトロフ事件」に次ぐ第二作、作者の最高傑作と評される作品である。主な被害者と容疑者4人は、鬼貫警部の大学時代の同級生(法学部)との設定で、人物名が独特なのは「稚気」のゆえだろう。イニシャルが、A.A、B.B、C.C、Z.Zなのだから。

 

 戦後間もない1949年の年末、国鉄汐留(貨物)駅止めになっていたトランクから、腐乱死体が発見される。福岡県の札島(二島)駅からC氏が発送したものだ。警察はC氏を追うのだが、トランク発送後失踪し妻も行方を知らない。死体はB氏のものと判明し、2人の同級生である警視庁の鬼貫警部が、個人的にと地元警察に断って捜査に加わる。実はC氏の妻は警部の恋人だった。C氏に奪われたことで、警部は満州に渡った過去がある。

 

        

 

 やがて、C氏の死体も岡山県の瀬戸内海で見つかる。容疑者として浮かんだのが、やはり同級生仲間のA氏とZ氏。トランクはもともとZ氏のもので、A氏経由でC氏に譲ったという。しかし同じトランクをA氏も持っていたことがわかり、A氏の容疑が濃くなった。犯人と思しき人物は、何度か目撃されている。赤松(若松)近くのエリアをC氏とトランクを運んでいたのだ。B氏の死亡時刻のアリバイとしては、

 

A氏 九州旅行からの帰路、築後柳川駅から東京に向かう列車内にいた

Z氏 四国を旅行していて、高松駅で時計を掏られたという

 

 があった。またC氏の死亡時刻についても、2人はアリバイを持っていた。

 

 A,C,Z各氏の動線と、2つのそっくりなトランクの動線が複雑に絡み合う難事件。当時は、国内航空路線も新幹線、高速道路もない。門司発東京行きの準急でも30時間もかかるのだ。

 

 大学生の時に読んで、2つではなく第三のトランクがあったとする解決編を頭に描いたのですが、全くハズレ。極めて難解なアリバイトリックでした。今回読み直しても、解説にある動線を整理した図を見るまで、理解ができませんでした。当時の時刻表の抜粋も載っていて、これは本棚に仕舞っておかなくてはいけませんね。