新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マルチン・ベックものの最高傑作

 1971年発表の本書は、以前デビュー作「ロゼアンナ」を紹介した、マイ・シューヴァル、ペール・ヴァルー夫妻の「マルチン・ベックもの」。ストックホルム警察の殺人課ベック警視と、その部下たちの捜査を描く警察小説シリーズである。全10作のうちの第四作で、米国探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀賞を得た傑作である。翌年は「ジャッカルの日」が受賞していることからも、非常に権威ある賞だとわかるだろう。

 

 秋の夜、郊外に向かっていた2階建て乗り合いバスで銃撃事件が起きた。運転手と7人の乗客が即死、一人の乗客が昏睡状態で病院に運ばれた。凶器は第二次世界大戦にも使われた、フィンランド軽機関銃スオミM37。犯人は約70発の銃弾を、乗客らに浴びせかけた。犠牲者の中には、ベック警視の部下で「ロゼアンナ」以来チームの若手として活躍していたオーケ・ステンストルム刑事もいた。

 

        

 

 このところ事件はほとんどなく、ベックチームは無聊を囲っていた。しかしオーケは、ベックにも知らせず過去の未解決事件を追っていたらしい。そのバスも、彼が通常使う路線のものではなかった。唯一の生存者だった男も、ルン刑事に謎のような言葉を残して死んだ。ベックたちは犠牲者一人一人をあたるのだが殺人の動機らしきものは見当たらず、結局オーケの未解決事件捜査がキーポイントと考えられた。オーケと同棲相手の娘オーサ・トーレルとも親しかったコルベリ警部は、オーサからオーケが何をしようとしていたかのヒントを掴もうとする。

 

 「ロゼアンナ」は夏の事件だったが、今回は秋から冬のストックホルムらしい気候の中で捜査が進む。北欧の国らしく開放的なセックスライフが語られ、それが事件解決のカギにもなる。派手な犯行で物理的な証拠は沢山あるのだが、心理的な手掛かり(動機)は少ない。等身大の刑事たちの地道な捜査、読み応えのある警察小説でした。