新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

100年前の日本を見る思い

 2022年発表の本書は、民主化ミャンマーに派遣され初歩から融資制度を作った銀行マン泉賢一氏の「ミャンマー金融戦記」。筆者はSMBCから2013年に現地に派遣されたが、その時はまだティン・セイン軍政下。外国銀行が営業できる状況になかったが、改革開放の機運はあった。翌年安倍首相らがミャンマー入りし、多くの日本の財界人も同行した。さらに2015年には、スーチー氏率いるNLDが政権交代を果たす。

 

 しかし、ミャンマーには近代金融基盤は全くなかった。長引く経済制裁で経済が低迷、通貨破綻も起きていて、誰も政府や銀行を信用していない。巨大国営銀行が解体されて、いくつかの銀行はできているのだが、

 

・銀行口座を持っている人は、1割に満たない

・口座があっても、預金の期限は1年

・融資の基準は3倍の不動産抵当をとること

 

        

 

 が実態である。筆者は在ミャンマー大使館、JICA、政府の副経済大臣らの助けを借りて、まず信用保証制度を作ろうとする。政府が設立する信用保証機関を設置、金融知識のある人材も育てながら、重すぎる不動産担保融資からの脱却を目指した。

 

 具体的には融資が焦げ付いたときに、信用保証機関が6割の損失を補填するというもの。機関だけではなく、関連法規まで筆者は作ることになる。その過程で知ったのは、

 

・やたらと細部や実行プロセスのち密さを追求する国民性

・官僚(特に運輸省や教育省)の上から目線や、無謬性

・会議での不透明な決め方(声の大きいものが雰囲気を作り出す)

 

 などなど。なんとなく「ムラ社会日本」に共通した現象だ。ミャンマーは、最後のフロンティアと呼ばれたが、100年前の日本と似ていたのかもしれない。筆者らが作り上げた近代金融システムも、クーデター後停滞から後退していることが最後に暗示されている。

 

 僕自身筆者の1年前に同国を訪れ、大学のデジタル系教員の再教育プログラムを作った。その時にぼんやり感じたものが、本書には記されていましたね。やっぱりそうだったのか・・・と。今は内戦が早く収まり、再び再建の道を歩めるよう祈っています。