2017年発表の本書は、以前「資本主義の終焉と歴史の危機」などを紹介した経済学者水野和夫氏の未来展望論。「資本主義の・・・」で収奪するフロンティアが無くなれば、資本主義は終わる、その前兆が金利ゼロだと述べた筆者が、では未来はどうなるのかを示した書である。
結論は、近代が終わって中世に戻るということ。ある程度の閉じた地域で自給体制を取り、人口も経済も停滞(というか維持)の状況になるわけだ。はっきり書かれていないが、格差は減少するが階層は固定化するのだろう。いくつかの論点があって、
1)エネルギー
1930年に1の資源(原油)を投入すれば100の資源が得られた。しかし21世紀には1の資源は11の資源しか生まない。閉じた地域で得られるエネルギーで、地域の全てを賄うようにするべし。
2)財政・金融
ゼロ金利が続くが、政府等の債務は整理する必要がある。投資は限定的にし、債務を減らさないと、回収のメドが立たないので破綻する。
3)政府の単位
米国、欧州、中国などが「帝国」の単位。日本はその中でどの位置づけを選ぶか、現状では適当な解がないので、時期をみるべし。日本の中でも、道州制的な地方分権が必要。
また、中世は陸棲国家の時代だったが、近代の入り口で海洋国家に覇権を奪われた。新世紀には陸棲国家の復権があるという。筆者の構想の背景にあるのが、20世紀の国際政治学者ヘドリー・ブルの予言。5つの特徴が現れた時、無限のエネルギーや資本、欲望に駆り立てられた近代が終わり、中世が復活する。
・国家の地域統合
・国家の分裂
・私的な暴力(テロ)の復活
・国境横断的な機構
・世界的な技術の統一化
確かにこれらの事は、近年増えている。しかし筆者の視点は、あくまでモノとそれに関するカネに留まっている。「データは21世紀の石油」説では、使っても減らないデータが基本で、これは無限に増える。サイバー空間をフロンティアとするなら、中世には戻らなくて済むと思いますよ。