新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

遅れてきた金融対外開放

 本書は発表(2019年)時、金融庁の総政局課長兼中国ディレクターだった柴田聡氏が、日中金融協力促進の持論を述べたもの。現役官僚が、この種の本を書くのは珍しいと思う。中国経済を扱った書としては、中国経済の崩壊・危機を扱ったものが8割、残り2割は中国経済礼賛もので、どちらも極端な感じがある。津上俊哉氏のこの本が一番フェアだと思うのだが、それも2017年のもの。

 

習政権、二期目の課題 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 そんな中見つけたのが本書で、最初は「礼賛もの」かと思ったのだが、読んでみると国際金融の視点から、多々気付かせられることがあった。

 

 米中対立の環境下で、それでも対中投資を進めるセミナーがあって、僕は「ソロス氏なども警告してますよね」と聞いた。すると講師たちから、

 

・アリババ叩きなどは一部の産業のこと

・今中国に投資しないでどこにするのですか

・米国だってウラでは貿易を増している

JPモルガンなど米国金融機関も、中国の陣容を強化している

 

 と一蹴されてしまった。この最後のところが気になっていたのだが、実際中国在の米国金融機関は支店も要員も増強している。日本が「経済安保」に凝り固まっていると、米国らに裏切られるぞというわけ。本当だろうか?

 

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 その疑問はこの書で解けた。答えは「中国の金融対外開放は2018年にようやく成り、現時点でもそのイナーシャが続いている」ということ。

 

 世界の銀行ランキング(総資産ベース)では、2018年の時点で1~4位を中国系銀行が独占、5位にMUFG、6位にJPモルガンだった。これはそれまでの国内資金需要が著しく旺盛だったから。加えてリテール含めたFintechの発展も著しく、銀行業はすでに世界一になった。ただ不良債権問題やシャドーバンキングの肥大化が悩み、一時期政府が推進していた「暗号通貨」も実質禁止状態になるなど不安定要因も多い。

 

 銀行に比べると、保険・証券分野は立ち遅れているが、規模でいうといずれも世界2位にまでなっている。これらの対外開放は、諸国から求められながら本格的開放は2018年までずれ込んでいた。そこから(主として日米だが)銀行・保険・証券の対中国進出が始まったが、製造業などに比べると数十年遅れたわけ。

 

 本書発表から2年、まだ「進出」の動きはあるものの、今後の見通しは不明です。注視しておくことにします。