新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

狼男、犬神明

 本書の作者平井和正は、漫画の原作者を経てSF作家となった人。1963年に「少年マガジン」に連載された「8マン」(画:桑田次郎)で有名になった。この作品はTVアニメにもなり、僕も小学生のころよく見ていた。同時期有名だったのは「鉄腕アトム」だったが、同じロボットアニメでも僕は「8マン」の方が好きだった。後から思うと「8マン」はある種のミステリーだったからかもしれない。

 

 本書の「ウルフガイ」(画:坂口尚)も最初は漫画、後にノベライズして「狼の紋章」(1971年)が出版されることになる。作者のライフワークとなった「幻魔大戦」(画:石森章太郎)も同じような経緯をたどる。

 

 本書の主人公犬神明は狼男、鋭い嗅覚・聴覚をもち、173cm、53kgとスリムだが、並外れた運動能力をもっている。指先でコインを折り曲げることができるくらいだ。ただ月齢で能力が変わり、満月の時には不死身なのに、新月の時には人間並みに弱くなってしまう。よく言われる「ヒーローには弱点を」持たせるべきというわけ。「ウルフガイ」シリーズは30冊以上が出版されているが、僕が購入したのは本書が最初である。

 

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 本書には、犬神以外にも超能力を持つ人物が出てくる。190cm、120kgはありそうな大男大滝雷太、5人の空手家に殴り掛かられても一向に堪えない。犬神に「なぜ反撃しなかった」と聞かれて「お腹空いてたから」と応えるノー天気な男。プロレス界に入るものの先輩たちにいじめられ、ついにキレて5人のレスラーを半殺しにしてクビになる。もうひとりは蛇姫石崎卿子、絶世の美女で予知能力を持ち、原爆の爆発にも生き残る不死身の女だ。さらに雷太の妹大滝志乃、文字通りにらんだだけでその相手にさまざまな不幸をもたらすことのできる霊能力者だ。

 

 荒唐無稽なSFとも怪奇小説ともつかない作品だが、人でもなく狼でもない狼男の矜持は一貫していて、ある種のハードボイルド風な味もある。デビュー作はSFだが、中央大学在学中に書いた習作は「夜の干潮」というハードボイルドだったそうで、その感覚が作品の残っているのかもしれない。

 

 昔漫画雑誌やTVアニメで見た作品に、久し振りに会いました。でもやっぱりアニメの方がぴったりくるかな?