新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

編集者としてのエラリー・クイーン

 中学生だった僕をミステリーの世界に引きずり込んだのは、「Xの悲劇」(バーナビー・ロス名義1932年発表)とそれを貸してくれた中学校の国語の先生である。中学校の図書館で、戦記ものやホームズ、ルパンものばかり読んでいるのを知っておられたのやもしれない。「Xの悲劇」は、子供向けに翻案されたホームズ、ルパンものとはレベルの違うインパクトのあるまさに「ミステリー」だった。

 

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 高校の1年生のうちには、国名シリーズなど初期のクイーン作品は全部読んでしまって、しばらく間が空くことになる。というのは、国名シリーズなどは創元社の文庫で出ているので1冊200円くらいなのだが、中期以降の作品はハヤカワミステリーしかなくこれらは300円以上した上に、絶版も多かったからだ。
 
 そのうちにクイーン編集によるミステリー雑誌が出ていることも知り、大学生になってからだが「EQMM(Ellery Queen's Mystery Magazine)」の日本版を読み始めた。クイーン名義の二人のうち、フレデリック・ダネイがプロットを担当し、マンフレッド・リーが執筆していたらしいのだが、ダネイは編集者としての熱意にもあふれていて、EQMMはほぼ彼一人の力で運営されていたようだ。
 
 EQMMによって発掘された作家は数知れず、特にアメリカンミステリーの隆盛はEQMMによってもたらされたといっても過言ではない。「クイーンこそが、アメリカンミステリーだ」と評する人もいるくらいだから。本格ミステリーだけでなく、警察小説やハードボイルド、ファンタジーに近いものまで幅広いジャンルの作家が巣立っていったが、「ブラックマスク」のような通俗雑誌とは一線を画していた。
 
 本書はダネイの編集者としての熱意と能力を示したものである。ここには時代も作風もバラバラの、69人の作家による70編のミニミステリーが収められている。最大で2,000語、短いものでは500語なので、ほんのちょっと時間が空いた時に手に取ってくださいと編集者のメッセージが添えられていた。
 
 本書も40年近く前に一度読んでいて、何篇かは覚えていた。面白かったのはいくつもあるが、一つだけ例を挙げると、「密室の大家」ジョン・ディクスン・カー作の「パラドール・チェンバーの怪事件」。ホームズもののちょっとパロディがかった作品で、文士劇(作家たちが出演する劇)でも上演されたことがあるという。ホームズは「奇術師作家」クレイトン・ロースンが演じ、カーも事件を依頼する貴族の役で出演したという。
 
 リーは1971年に、ダネイも1982年に亡くなり、偉大な足跡が残りました。僕の人生を少々充実したものにしてくれたクイーン作品、飽きることなくまだ読みますよ。