新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

時代に取り残されたメディア

 2021年発表の本書は、近代日本の代表的メディアである朝日新聞(グループ)の経営課題に関するレポート。著者は「宝島特別取材班」となっているが、4人の共著。うち2人は朝日新聞社員だった人。

 

 旧士族だろう、村山家と上野家が興した新聞社で、太平洋戦争までは大陸侵攻などを煽り、戦後は一転して左翼思想を展開した。政権批判が人気を呼んで部数を伸ばしたが、

 

・デジタル時代への対応遅れ

・読者の高齢化、減少

 

 によって経営危機に陥っている。年々発行部数が減り(*1)、メディアとしては赤字から脱却できない。2020年9月期で81億円、2021年3月期予想で170億円の赤字である。実はもっと新聞事業はひどい赤字なのだが、不動産事業で少し持ち直しているのが現状。

 

        

 

 にもかかわらず、社員の平均年収は1,200万円を越えるし、タクシー代など経費も潤沢だ。染み付いた高コスト体質からは抜け出せていない。ならば、と新事業に手を出すのだが、出前館・ミーティングテラス・自分史・クラウドファンディングなどまともなビジンスモデルが描けていないものばかり。まさに「武士の商法」である。

 

 新聞事業として日経紙の後塵を拝するようになったが、デジタル時代への対応で差が出たとある。例えば電子版では日経紙のみが有料会員数を発表しているように、ダントツである。若手の読者を獲得できず、自らのDXもままならない。

 

 花形部署で調査報道を担当していた特別報道部も、吉田調書問題・慰安婦問題で誤報をして消え去った。記事取り消しの姿勢を批判した池上彰氏のコラムを掲載しなかったことでの非難も大きかった。

 

 すでに1966年に文芸春秋のあるライターは、朝日新聞を王国に例えて「どのような変化があっても、国民(社員)の精神構造から誇りと愛着が消えない(組織)」と評した。典型的な「ゲゼルシャフト」である。平家物語「盛者必衰」をほうふつとさせるレポートでした。

 

*1:毎年30~40万部減っていて、このまま減れば令和20年を待たず、読者ゼロになる。