新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本格黄金期の中国人探偵

 1930年発表の本書は、創元社が復刻してくれたホノルル警察の中国人警部チャーリー・チャンが探偵役を務めるシリーズの代表作。作者のアール・デア・ビガーズは、新聞の演劇評から劇作家、作家に転じた人。ヴァン・ダインやクイーンと同じ本格ミステリー黄金期に、これまで悪役ばかりだった中国人を主人公にした異色作品群を遺した。

 

 ニューヨーク発サンフランシスコ行きの世界一周旅行に参加したのは、新興国米国の富裕層15名。引率者ロフトン博士は、豪華客船・列車を組み合わせた贅沢な旅行を企画していた。ところが最初の滞在地ロンドンのホテルで、自動車成金の老人が絞殺された。事件解決の手掛かりが少なく、担当ダフ警部が止めるにもかかわらず、予審が済むや否やツアーは再開された。しかしホテルの従業員の証言で、老人は演劇界人と部屋を変えていたことが分かる。

 

        

 

 演劇界人を容疑者と見たダフ警部はニースに飛ぶが、今度は演劇界人が殺されてしまった。さらに次の滞在地サン・レモで夫を待っていた演劇界人の妻も、警部の前で射殺された。犯人はかつてこの夫婦と縁のあった悪漢、今は別の名前でツアーに参加しているのだが演劇界人に気付かれたと知って牙を剥いたらしい。ツアーは続き、エジプト・インド・シンガポール・香港を巡り横浜へ。ここで内偵のためツアーに同行していた警部の部下も殺されてしまった。

 

 ダフ警部は次の寄港地ホノルルに先回りし、旧知の中国人チャン警部に事件を託す。チャン警部は部下の日本人カシマと共に、サンフランシスコ行きの船に乗る。終着までに事件を解決するのが、チャン警部のミッションだった。

 

 高校生の時、街の書店に初めて注文した作品でもある。ストーリーはすっかり忘れていたが、再読してみて実に緻密なミステリーで、チャン警部の訛った言葉に隠されたチャン警部の知性が光る作品だった。とても懐かしかったです。