本書は、2015年に単行本で出版されたものを、2021年に加筆されて新書版で再版されたもの。8,000億円近い赤字を出して「会社が無くなるかもしれない」との危機から、構造改革でV字回復を成し遂げたマネジメントのお話である。
といっても、本書は僕にとっては単なる経済学の参考書ではない。当時僕もこの企業にいて、改革を見ていた。川村隆社長兼会長が中西副社長に社長職を譲った後は、川村会長のカバン持ちで霞ヶ関等にでかけたことも多い。中西副社長始め、本書に出てくる5人の副社長が全員存じ上げていて、そのうちの3人は直接の上司だったことがある人だ。
現在も当時(2009年)と同じ32万人規模の従業員がいる日立グループだが、その中身はずいぶん変わった。今ではそのうち日本人は13万人だけ。創業110年を数える企業だが、かなり昔に分社した「日立○○」という国内グループ企業はいなくなり、イタリアの鉄道関連、スイスの電力関連、米国のデジタル関連企業をM&Aして、真の多国籍企業になっている。
著者と5人の副社長は、企業や従業員を守るためはもちろん、海外の機関投資家への説明のためにも、構造改革をせざるを得なかった。
・社会インフラを支える事業をコアとし
・コアと縁の薄い事業や不採算事業を売却し
・コアに資する事業を買い取り、また社内で育成する
改革を断行することになる。それまで茨城の田舎発の共同体型(ゲゼルシャフト)企業だった日立グループを、グローバルに通用する機能型(ゲマインシャフト)企業に変貌させたわけだ。本来もっと早くすべき改革だったのだが、老舗グループ企業やOB達の声が大きく時の経営者(&スタッフ)はそこに踏み入ることができなかった。
「改革にはスピードが重要」と本書にある。だから意思決定を6人に限定し、素早く決断、素早く執行する体制を採った。本書には明示されていないが、改革の方向性は以前から存在した。ピンチがその実現を可能にしたのだ。
ほとんどは知っていることでしたが、改めて読んで記憶を新たにしました。懐かしい話でした。