新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「Cold Case」17年後の雪解け

 本書は、以前「恋人たちの小道」を紹介したナンシー・ピカードの2006年の作品。作者は「恋人たち・・・」で登場した市民財団所長のジェニー・ケインや、ジャーナリストのマリー・ライトフットを主人公にしたシリーズが知られているが、本書はノンシリーズの力作。舞台は、作者も住んでいるカンザス州の架空の田舎町スモール・プレインズ。

 

 3件の家族が登場する。医師のレイノルズ家、判事のニュークイスト家、保安官のシェレンバーガー家である。1987年の吹雪の夜、シェレンバーガー家は子牛の出産を助けようと雪の中に出て行き、全裸で死んでいる若い女を見つける。ニュークイストも駆け付け、死体をレイノルズの診療所へ運ぶ。顔が激しい殴打で潰されていて、身元を確かめるすべがない。被害者も特定できず、事件は迷宮入りしてしまう。

 

        

 

 しかし不思議なことに、ニュークイスト家の長男ミッチ(18歳)は、次の朝に街を出てそのまま音信不通になってしまう。幼馴染のミッチにほのかな恋心を抱いていたレイノルズ家の次女アビー(16歳)は、ミッチが可愛がっていたオウムを引き取るだけしかできなかった。

 

 被害者の墓標は、誰からともなく「聖処女の墓」と噂され、パワースポットとして近隣の人が訪れるようになる。そして17年が過ぎ、30歳を過ぎたアビーは、園芸店を一人で切り盛りしている。父親から保安官職を継いだ次男のレックスは、死体を見つけた時は顔は潰されていなかったことを知っている。しかし秘密は守ってきた。

 

 認知症だった判事の妻でミッチの母親だったナディーンが死に、葬儀の後ミッチがこっそり戻ってきた。17年前に街の人達が隠そうとした事件の真相が、ようやく雪解けして現れようとしていた。

 

 米国の中央に位置するカンザス州は、冬は厳冬、夏は猛暑。そんな田舎町の閉鎖性を、ベテランとなった作者は緻密に描いています。なかなかの力作でした。