新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

イディタロッド犬ソリレースの陰で

 1991年発表の本書は、アラスカ州フェアバンクス在住の作家リチャード・バリーのデビュー作。時代は米ソ冷戦末期、舞台はソ連ベーリング海峡を挟んで向かい合っているアラスカ州だ。主人公のリック・ベンスンは、作者同様フェアバンクスに住む形成外科医。ベトナム戦争では医師でありながら長距離狙撃や暗殺の能力を買われて、北ベトナム要人暗殺の任務についていた。

 

 8年前陥落寸前のサイゴンで、ベトナム人の女スパイから託された女児メイを連れて行方不明(MIA)になった後、アラスカの田舎町で開業していた。しかしある日、メイの父親だというベトナム軍の大佐が、娘を誘拐してしまった。現地民(イヌイット)を装ったベトナム兵の仕業だった。

 

        

 

 事件は、単なる少女誘拐に留まらず、米国CIAやソ連KGBも関わって暗闘が始まっていた。娘を奪還しようと戦士の本能を蘇らせて動き出したリックだが、事情を聴いていた友人の警官が目の前で殺され、容疑者にされてしまう。リックの行く先々で人が死に、何者かが「狂った外科医が街の人口の半分を殺し回っている」と喧伝している。折からアラスカ州では年に一度の犬ソリレース「イディタロッド」が開催されていて、そのコースに沿って厳寒の中、リックは誘拐犯を追う。

 

 ベトナム軍の大佐から娘を奪還したリックだが、Mi24ハインドまで繰り出すソ連の精鋭スペッツナズに襲われ負傷する。彼を助けるのはイヌイットの老人、偶然巻き込まれた女ジャーナリスト、レース参加の青年の3人だけ。米軍部隊さえ全滅させたスペッツナズにどう立ち向かうのか?

 

 作者が形成外科医であることから、リックが自らの負傷(鼻骨と眼窩の骨折)を鏡を見ながら手術するシーンは迫力がある。しかし、後半多少持ち直すとは言え、ストーリーはありきたりで薄っぺらい。初期のコンピュータウイルスの話も出てくるが、浮いている感じ。うーん、ちょっと迫力不足ですね。