新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロワール河を臨む古城にて

 1935年発表の本書は、カーター・ディクスンの<H・M卿もの>。昨年紹介した「白い僧院の殺人」同様の不可能犯罪ものだ。作者(別名ディクスン・カー)は、米国生まれなのに、歴史ものや欧州大陸が大好きで、本書の舞台もロワール河を臨む古城<島の城>である。探偵役のH・Mことヘンリー卿は、英国情報部の幹部という設定だが、一説にはチャーチル首相がモデルとも言われる。傲岸不遜なところは、確かにそうだ。

 

 本書のワトソン役ブレイクは、他の作品にも登場するが引退した(もしくは臨時雇いの)英国情報部員。ドラモンドという情報部員の依頼でイヴリンと共にパリからオルレアンを目指す。

 

 マルセイユで英国情報部員が殺されたのだが、眉間に深い傷を負っていた。まるで一角獣の角で刺されたように。死に際に彼は「一角獣」と言い残していた。この言葉は、何らかの諜報活動の暗号名らしい。

 

        

 

 諜報員殺しの有力容疑者は、正体不明の怪盗フラマンド。ルパンをほうふつとさせる悪党で、変装や偽装が巧みである。彼を追うパリ警視庁のガスケ警部も、一般に顔を知られていない秘密捜査官。誰にでも化けられるという。

 

 ヘンリー卿ら英国情報部の3人も含めて「島の城」にはいろいろな肩書を持った人物が集まってくる。この中の誰かがフラモンドで、誰かがガスケのはずだ。疑心暗鬼の中で、ひとりの男が眉間を刺されて死んだ。目撃者の目には犯人は映らず、あたかも離れたところから銃撃されたように見えたのだが、死体には弾丸は残っておらず、一角獣の角に刺されたとの疑惑が浮上する。

 

 誰が誰に化けているか分からない中で、犯人捜しのドタバタ劇が続く。ヘンリー卿が意表を突く推理を披露すると、フラモンドやガスケ(らしい人物)が反証を持ち出す。遠隔殺人のトリックは正直大したことがなく、作者の「傑作」とは評価できないが、複雑なストーリー展開という点はさすがである。まあ、もう少し分かりやすいストーリーにしてもらった方が、僕は有難いですがね。