新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ECCの少壮弁護士

 1979年発表の本書はリチャード・N・パターソンの処女作。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を得た作品である。作者は当時32歳、オハイオ州の地方検事補を務めたりアラバマ州で法律事務所を共同経営していたこともある弁護士作家だ。カリフォルニア生まれだが上記のように米国各地を渡り歩き、カリフォルニアに戻って執筆に専念していると解説にある。ウォーターゲート事件の裁判にも関わっていたと言い、当然ワシントンDCにも土地勘はあるのだろう。

 

 本書の舞台は表紙の絵にあるようにそのワシントンDC、経済犯罪対策委員会(ECC)の告発局に勤務する少壮弁護士クリス・パジェット(私)が主人公だ。ECCは企業の計画倒産・株価操作・密輸出入・市場独占などを監視・調査するのがミッションの公的機関。日本でいえば、公正取引委員会にあたるのだろうか?

 

 クリスはまだ29歳の独身、大祖父はカリフォルニアで鉄道会社を経営していた開拓者で、「頭に血が上りやすい」性格を受け継いでいる。告発局の調査官として正義感を振りかざすので、権謀術数・野心や欲望の渦巻くDCの中では孤立しがちである。

 

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 今回彼に与えられた任務は、ラスコ・デバイスイズという電子企業の経営者ラスコが自社の株価操作をしたのではないかという疑惑の調査。ちょうど日米半導体摩擦が起きていたころらしく、日本のヨコマ(横浜?)電子工業という企業が出て来て、半導体をラスコ社に卸しているあたりに疑惑が隠されている。

 

 クリスは株価操作を常習にしている詐欺師サムに目星をつけるが、ボストンの友人から「ラスコ社の秘密を持つ男を紹介する」と言われて、ラスコ社のHQのあるボストンへ赴く。リーマンというその男は、ラスコ社の経理部長だった。悪事の証拠を持っているという彼だが、実態を話さないうちに車にひき逃げされて死んでしまう。

 

 ラスコ氏は大統領の盟友であり、多額の納税をしている有力者。十分な証拠が挙がらないので、ECCの上司たちはクリスを責め始める。しかし委員長のウッズはクリスに自分の部下メアリを付けて支援してくれる。力を得たクリスは、ラスコ社の子会社のあるカリブ諸島に出向くのだが・・・。

 

 テンポの速い、キレ味のいい社会派ミステリーでした。新人賞を獲ったのもうなずけます。解説に「チャンドラーやロス・マクの衣鉢を継いだ」とあるように、描写・会話とも一流です。第二作以降も探してみましょう。