新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マクリーンの警察小説

 1969年発表の本書は、冒険小説の雄アリステア・マクリーンが書いた警察小説。デビュー作「女王陛下のユリシーズ号」から後年の「金門橋」まで、映画化された有名な「ナヴァロンの要塞」を含めて、軍事スリラー・戦記小説に特徴がある作家だ。本書の解説には作者が書く敵は、強大な戦力を持ったものと牙をむく大自然だとある。HMSユリシーズ号は、軽巡洋艦ながらナチスの戦艦とバレンツ海の暴風・波浪と戦う。「ナヴァロンの要塞」のマロリー大尉は要塞を守備するナチスの軍勢の前に、垂直に切り立つ島の断崖絶壁を登らなくてはいけない。

 

 しかし、本書にはその微かな片鱗はあるものの、どちらの敵もスケールが小さい。主人公は国際刑事警察(機構)ロンドン支部のシャーマン警部、国際的な麻薬シンジケートを追って「運河の街」アムステルダムにやってくる。先行して調査をしていた部下のデュクロ刑事は、シャーマンたちがスキポール空港に着いた直後に射殺されてしまう。

 

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 シャーマンは2人の女性捜査官を伴っていて、自分は都心の高級ホテルで囮の役目を、マギーとベリンダの2人は郊外の村で隠密活動をさせる。案の定彼を狙ってきたのはホテルのフロア係、彼は難を逃れて現地警察のデ・グラーフ部長に状況を説明する。麻薬取引の中心になっているのは、郊外の村ハイラーと思われる。シャーマンは現地警察の手はほとんど借りないで単独捜査を続け、ルメイという女とその弟が取引に関わっていることを突き止める。

 

 ルメイの弟はひどい中毒患者、その描写はなまなましい。現地警察のファン・ゲルダー警部の妹トルディも子供の頃からの中毒患者で、治療は重ねたもののまだ奇矯な行動に出ることがある。兄は「まだ精神的には10代の子供のままだ」と淡々と語る。麻薬組織を追って、村の倉庫・密輸船・ザイデル海でシャーマンの活躍は続くのだが、何度も殺されそうになる。

 

 「危機に次ぐ危機」は作者の真骨頂だが、やはりスケールが小さい。それに警察機構の行動パターンとシャーマンの動きは矛盾する。そもそもインターポールとして知られる国際刑事警察は、各国の情報連携機関で(銭形警部のように)手錠を振り回したりはしない。2人の美人アシスタントを連れているのにも違和感がある。

 

 うーん、やっぱり作者の「敵」は、軍事組織かテロリストくらいにしてもらわないと、迫力が出ませんね。