1987年発表の本書は、「伸介&美保シリーズ」でお馴染みの津村秀介の長編ミステリー。ただし、伸介や美保は登場しない、珍しいノンシリーズである。作者は海外旅行好きで、15年間毎年一度は海外旅行に出かけていたという。特に欧州がお好みで、1960年代から欧州を舞台にした短編をいくつか雑誌に発表している。その経験を経て、長編ミステリーに選んだのが本書のテーマ「商社海外駐在員の奇禍」である。
「Japan as No.1」とも言われた時代、その主役は製造業だったが陰で繁栄を支えたのは日本人商社マン。世界のどこにでも「Economic Animal」と陰口を言われながら、日本の商社マンは出かけて行った。当然奇禍にも遭い、アムステルダムでバラバラ死体となって発見されたこともある。作者はその事件にヒントを得て、20年後に本書を発表している。
アムステルダムの運河に、日本商社「熊岡貿易」のブラッセル駐在員小田木浩司と思われる胴体だけが浮かんだ。現地警察から身元照会を受けた神奈川県警の桐田警部は、本当に浩司なのかといぶかる。というのは、浩司自身妻の圭子を殺した容疑を掛けられていたからだ。資産家でもある小田木家では、昨年浩司の父親がロスアンゼルスで事故死するなど不幸が相次いでいる。
アムステルダムでは、現地警察に在ブラッセル日本大使館の河合が協力して捜査が始まる。河合は警視庁からの出向組だ。浩司が行方不明になった日、運河沿いを3人の日本人が酔って歩いていたと複数の証言が得られた。その一人は、圭子が死んだとき浩司のアリバイを証明した佐々木という男らしい。真夏の横浜とアムステルダム、7時間の時差を超えた連携捜査が始まる。
直行便でも17時間もかかった時代の欧州旅行、酒好き・将棋好きの作者はマグネット将棋盤を機内に持ち込んでいたそうです。当然右手にはウイスキーのグラス。僕も欧州は大好きです。作者の気持ち、よくわかりますよ。