今日2月22日は、忍者の日。2019年発表の本書は、直木賞作家姫野カオルコさんが、故郷滋賀県のことをやや自虐的に綴ったもの。筆者は1958年甲賀市生まれ、「昭和の犬」で直木賞を受賞し、東京と故郷を往復しながら作家活動を続けている。その滋賀県だが、ある意味日本で一番目立たない県かもしれない。筆者によれば京都の陰に隠れてしまい、新幹線などでひんぱんに通っている人でも存在を認識しないのだそうだ。
例えば、JR東海が「そうだ!京都行こう」キャンペーンを打った代表的な観光地は比叡山。これは実は滋賀県にあるのであって、京都府ではない。高名な料亭<招福楼>も、やはり滋賀県(大津)にあるのだが、観光客は皆「京都の料亭に行ってきた」と思っている。県の中心都市大津が、京都駅からJRでたった2駅先にあるのが問題点。
それだけでなく、筆者は「滋賀県出身」と言っても関東圏では取り合ってもらえないので出身地を言わなくなったとある。佐賀県や千葉県と間違えられたり、志賀高原と思われたりするから。そういえば有名なジャーナリスト田原総一朗氏も滋賀県出身だが、自らそういうのを聞いたことはない。滋賀県の問題は、
・ダサい 京都の洗練さにはとても追いつかない
・臭い タバコ文化が根強い
・離れている 世代間の断絶が大きい
・歩けない タクシーは少ないし、車ナシでは生活できない
ことだという。ある意味典型的な田舎の悩みだが、都市であり有名な観光地である京都の隣ゆえ、悩みはより深い。そこで滋賀県出身者は「忍ぶこと」を強いられる。筆者は「甲賀」生まれだが、僕も母方の祖父母は甲賀の民だった。忍者の里という意味でも、伊賀の方が圧倒的に有名で、筆者はそれにも慚愧の念をにじませる。伊賀忍者を有名にしたのは横山光輝の「伊賀の影丸」なのだが、横山氏の奥様は甲賀出身と聞く。
このように虐げられている滋賀県だが、実は平均寿命が一番長い「長寿県」だ。気候も温暖で食材も豊富、そこしか知らなければ上記のような問題も見えてこない。筆者は東京と故郷を往復して「外からの視点」で故郷を見るから、問題を認識できたわけだ。
年齢の近い筆者の子供の頃の思い出(TV番組・アイドル・歌謡曲等)には共通することも多く、懐かしさに溢れた書でした。