1990年発表の本書は、ご存じ津村秀介の「伸介&美保もの」。「宍道湖殺人事件」に始まる湖シリーズの1冊で、舞台は日本最大の湖琵琶湖。京都から東へ向かうJR路線は、琵琶湖を挟んで北に湖西線、南に東海道線と二又に分かれる。湖西線で分岐駅山科の次の駅西大津と、東海道線で2つ先の駅瀬田で、相次いで列車が人をはねた。2人とも即死だったが、運転手たちは口をそろえて、
「黒いハーフコートで、長身の男が突き飛ばした」
という。横浜の外科医と高知の刃物商にどういう接点があるのか、滋賀県警は困惑する。しかし2人の被害者の名前を見て、神奈川県警は驚いた。2日前、横浜のホテルの一室で、コールガール真沙枝が刺殺された事件があった。容疑者は長身の男で、逃げる時エレベータで血の付いたナイフを落としていた。その目撃者2人が、今回の2人の犠牲者だったのだ。
この件を嗅ぎつけた「毎朝日報」の谷田と「週刊広場」の伸介たちは、直ちに事件に介入。伸介は高知と真沙枝の出身地熊本へ飛ぶ。伸介は、二流週刊誌「週刊事件」の長浜記者が自分の一歩前を走っていることを知る。浮かんだ容疑者は、真沙枝を追って熊本から大津、横浜へと仕事の場を移した男、森塚。しかしその森塚も、真沙枝の葬儀に立ち会うため熊本に戻った時に殺されてしまった。
新たに容疑者として浮上した男には、前の3件はともかく、森塚を殺しに熊本には行けないアリバイがあった。その日は大阪のホテルを出て、京都から東京に戻って来たというのだ。要所で証人がいて、しかも途中撮影した自分が写った写真まで提出してくる。
面白アリバイトリックでしたが、僕には分かりました。そもそも最初の1件で無様なことにならなければ、アリバイトリックなど必要なかったですよね。これは犯人の行動がちょっと不自然です。